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KALTRINA KRASNIQI INTERVIEW

河野知美『水いらずの星』インタヴュー

4. セリフは戯曲のままで全く変えていません、
 その“変えない”ということに意味があったんじゃないのかなと思います

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OIT:ああ、そうなんですね。それ以外は全部戯曲そのままですか?
河野知美:ほとんどがそうです。シーン的には男が海を渡ってくる場面と滝沢涼子さんにご出演いただいたスナックのシーンだけが映画用に足されたシーンです。セリフが載っている場面という意味では戯曲ほぼそのままです。監督が松田正隆さんに映画化の相談をされた際に「この戯曲をこのままやります」とお伝えしたと伺っています。

OIT:それはそれで、珍しいやり方ですね。
河野知美:これは私の考えですけど、監督にとってその“変えない”ということに意味があったのではないか思います。戯曲を映画化した作品は沢山あるけれど、戯曲をほぼそのまま変えずに映画した作品は至極珍しく、まさにそこに監督は挑みたかったのではないか、と今だからこそ思います。私も、戯曲自体がいじる必要のないくらい素晴らしいものだったのでそのままで問題ないと思いました。

OIT:リハーサルはかなりやりましたか?
河野知美:とにかくセリフ量が凄かったので、男役の梅田誠弘さんと二人で、感情を入れず読み合う“本読み”を繰り返し、セリフを覚えていきました。公園を歩きながらセリフの練習をしたりしましたね。他の人がいたり、外的な刺激があるような環境でも、自然にそのセリフを言えるようになるほどやりました。

OIT:すごいですね、それがいつのことですか?
河野知美:それがクランクインの半年前から3ヶ月間のことです。セリフが全部入った頃に越川監督の事務所に行って、じゃあ、第一幕をやってみて、っていう感じでした。

OIT:じゃあ、本読みしてセリフを頭と体に入れる期間は、俳優さんお二人だけでやっていて、演出は全く入ってないわけですね。
河野知美:そうですね、その期間は全く入ってません。何しろ、セリフが物凄い量だったので。梅田さんには長い間お付き合いいただき本当に感謝です。大変な労力だったと思います。

OIT:そして、そこから監督とのリハーサルで場面を作っていくわけですか?
河野知美:他の越川監督作品の場合がどうかはわかりませんが、『水いらずの星』の場合は、いいもの、これだ!というものが出るまでとにかく粘ってみようという演出スタイルでした。監督の目の前で、私と梅田さんが動きながらリハーサルをするんですが、一度たりとも同じ芝居をしたことはありませんでした。その時その時の河野知美、梅田誠弘という人の状態から生まれる女役と男役が、何を目の前で感じて、どういう感情でそのセリフを言うのか?監督からの演出は特になく、それぞれが正解を持たないまま、その場の正解を探っていくという作業でした。

OIT:そうして探っていく中で、これだと言うものが出てくると、それはそれで固定するのですか?
河野知美:固定しません。

OIT:では、その数ヶ月のリハーサル期間中は、延々と演技のバリエーションを出し続けるわけですか?
河野知美:バリエーションを出すと言うよりは、その場で生まれる、その瞬間だけが正解という感じですね。

OIT:その瞬間を生きる、ということですね。
河野知美:そんな感じでした。作品を見ていただければおわかりいただけると思うのですが、第一場のラストシーンも、作品の中では非常に優しいシーンとなっています。ですが、ある日のリハーサルでは、何で私の悲しみを男は理解しないのかって、怒りをぶつけるような展開になったこともありますし、男が背中を向けたまま、背中に抱きついた女にお金を渡すという芝居になったこともあります。監督が納得された表情を見てああ良かったと思って、次にそこを目指してしまうと、もう違う、それは正解ではないってことになります。

OIT:一回性というか、一回限りのことを毎回求められるということですね。
河野知美:そうです。それこそ即興のようでもあったかもしれないです。

OIT:そういうハードなリハーサル期間を経てから、さあ、いよいよ撮影に入ろうとなる。
河野知美:河野知美:予算が充分ではなかったので、追加撮影は考えられませんでした。なるべくセリフをとちらないよう、準備万端な状態になれるように可能な限り準備した上で撮影に入るという流れでした。

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