OUTSIDE IN TOKYO
KALTRINA KRASNIQI INTERVIEW

『水いらずの星』は、岸田國士戯曲賞受賞経験のある劇作家・演出家、松田正隆の同名戯曲を越川道夫監督が映画化、崖っぷちのユーモアを効かせ、大胆な映画化に成功した作品である。

舞台は、香川県の坂出、寂れたアパートで女が一人暮らしをしている。女はかつて、長崎県の佐世保で夫と暮らしていたが、別の男と駆け落ちをした後、一人で坂出に流れ着き、スナックで働いて生計を立てている。そんなある日、夫が女のアパートを訪ねて来て、二人は長年の空白の時間を埋めるように、お互いのことを少しづつ語り出す。

主人公の女を演じる河野知美の演技と夫を演じる梅田誠弘の存在感が素晴らしく、本作のプロデューサーでもある、河野知美の”顔”は、映画の主戦場と化していて、何人もの女性が憑依しているかのように幾通りにも変幻する。映画史上稀に見る、“海”が描かれた作品でもある。

本作では、主演の河野知美がプロデューサーを務めている点も興味深い。欧米でも主演女優が自らの俳優としての特性を理解した上でプロデュースを務めるインディペンデント映画の良作(グレタ・ガーウィグやミア・ゴスの諸作品、ヴィッキー・クリープスの『エリザベート1878』など)が増えており、注目に値する。

なお、本作は、私が作品選定委員の一人を務める映画祭「第一回 Cinema at Sea-沖縄環太平洋国際フィルムフェスティバル」(https://cinema-at-sea.com/)のコンペティション部門でのワールドプレミア上映が決定しており、沖縄の観客にどのように受け止められるのか楽しみだ。ここに、素晴らしい”演技”をも超越したような男と女の親密な瞬間を顕然すると同時に、自らの挑戦的な作品をプロデュースし遂げつつある河野知美のインタヴューをお届けする。

1. 渋谷マークシティの前で路上ライブを365日続けてやりました

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OUTSIDE IN TOKYO(以降OIT):『水いらずの星』を拝見すると、一番最初に「屋号 河野知美映画製作団体」と出ます。文字通り、屋号ということですよね。
河野知美:ええ、恥ずかしいですね(笑)。コロナが蔓延して、2年目くらいでした。文化庁の「ARTS for the future!」という助成金制度がありまして、その時に任意団体を立ち上げました。芸名と本名を色々と説明するよりは、簡潔に伝わるように俳優名は“河野知美”ですと宣言する意味も含めて、そう名付けました。

OIT:少し遡ってお話をお聞きしたいのですが、最初に俳優になろうと思ったきっかけは何だったのでしょう?
河野知美:そもそも、最初はシンガー・ソングライターでした。歌を歌うことが好きというよりは、作曲をするのが好きで、そこに付随して歌詞がのってきて、だったら歌ってみようかなと思って歌い始めたんです。渋谷マークシティの前で路上ライブを365日これでもかとやり続けました。

OIT:えっ、365日!いつ位のことですか?
河野知美:私が28、9歳頃だったと思います。大学在学中もライブ活動はやっていましたが、研ぎ澄ますためにも、人前で歌い続けるのがいいなと思って。自分でCDのジャケットもデザインして、CDを焼いて、手売りしてました。

OIT:365日、毎日ですか?
河野知美:はい、もう、365日毎日です。雨の日も、風の日も。毎日CDを手売りしていました(笑)。その時に、ある音楽関係の方にスカウトをしていただいて。それで、デヴューに向けて、週に3曲は必ず書きなさいって言われて、毎週毎週、曲を書いていました。そうして曲が溜まってきた頃に、スカウトしてくださった方が、ボイストレーニングはボイストレーニングで自分のマイナス面を埋める作業だと思うんだけど、「自分の強みを倍にする作業って何だと思う?」って聞かれたんです。その時、私は“表現力”かな、ってまがりなりにも思ったんでしょうね、「表現力かもしれないです」って言ったんです。「じゃあ、それを伸ばすためにはどうしたらいいと思う?」って聞かれて、演技の勉強をしたいですって答えたんです。そうしたら、「それは面白いね」って言ってくださって、ある事務所の養成所をご紹介頂いて、そこで同じ歳位の30名位の俳優さんたちと一緒に演技の勉強をしていたら、オーディションに合格して。そこで商業映画デヴューをしました。

OIT:因みに、それは何という映画ですか?
河野知美:『星砂の島のちいさな天使 マーメイドスマイル』(2010)という映画です。沖縄の竹富島で撮った映画です。

OIT:沖縄ですか?
河野知美:そうなんですよ、デヴュー作がそもそも沖縄の映画でした。

OIT:髙嶺剛監督の『変魚路』(2017)に出演されたのは2016年位だと思いますが、たまたま沖縄とは縁があるという感じなんですね。
河野知美:そうですね、『変魚路』にもご出演されている俳優の内田周作さんに、 ある役の俳優を探しているんだけど、やってみる?と誘っていただき髙嶺監督に初めてお会いしました。

『水いらずの星』

11月24日(金)より、新宿武蔵野館、シネマート心斎橋ほか公開

原作:松田正隆
監督・脚本:越川道夫
企画・プロデューサー:古山知美
音楽:宇波拓
撮影:髙野大樹
企画・プロデューサー:古山知美
音響:川口陽一
編集:菊井貴繁
出演:梅田誠弘、河野知美、滝沢涼子

2023年/日本/164分/カラー/アメリカンビスタ/5.1ch/DCP
配給・宣伝:フルモテルモ/Ihr HERz Inc.

© 2023松田正隆/屋号 河野知美 映画製作団体

『水いらずの星』公式サイト
https://mizuirazu-movie.com
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