OUTSIDE IN TOKYO
KALTRINA KRASNIQI INTERVIEW

河野知美『水いらずの星』インタヴュー

5. 女役に、良かったね、頑張ったね、と言ってあげられるあのシーンが大好きです

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OIT:撮影期間はどれくらいありましたか?
河野知美:一週間前後です。

OIT:え、そんなに短かったんですか。本当に?
河野知美:はい、一日に数十ページ分撮った日もありました。

OIT:それはびっくりですが、でも、それは先程のハードな準備期間があったからこそ出来たことですよね。あのクオリティで。
河野知美:そうだと思います。でも実際、監督以外のスタッフさんたちは、事前にリハーサルを見ていたわけではなかったし、ロケ場所での演技は撮影初日が初なわけで、また新たな芝居作りが始まるんです。あんなに長いリハーサルをしていたのに改めてその場所で芝居をしだすと今までのものがリセットされてしまい何度かご迷惑もおかけしました。その度に、監督から二人できちんと関係性を作ってくるように指示を受け、梅田さんと話したり、時にただただ一つの空間に二人でいたり、離れてみたり、お互いがもう戻れる、となったら現場に戻って撮影に挑む、という繰り返しでした。

OIT:あの部屋は、スタジオの中に作ったわけですか?
河野知美:実際には、フィルムコミッションが提供している撮影用のアパートです。制作の藤原さんが探してくれました。

OIT:方言は博多弁でしょうか?
河野知美:佐世保弁ですね。

OIT:その佐世保弁が大変素晴らしくて、方言の魅力ってありますよね。海外の方にその辺がどこまで伝わるかは分からないのですが。覚えるのは大変ですよね。
河野知美:大変でした。でも完成した脚本があったので、すぐに読んで覚えることが出来る状況ではありました。色々な方に方言指導やテープを作っていただいたりして、大変助かりました。余談ですが、私より梅田さんの方がずっと耳がいいと言うか、音感がいい方だなといつも思っていました。すぐ習得出来ちゃうんです。不器用な私にとっては羨ましい限りです。

OIT:この映画の河野さんと梅田さんの演技が本当に素晴らしくて、とりわけ、河野さんの“顔”が、この映画の主戦場になっていたと思うんですよね。映画を見ていると、河野さんの顔がどんどん変化していて、何人もの女性が河野さんの中から出てきているように見えて、大変驚かされました。見ていく内にどんどん引き込まれていくという作品になっていると思います。今回の作品で特別な手応えのようなものは感じるものですか?
河野知美:私は不器用な俳優なので技術では賄えないな、といつも思ってるんです。プロデューサーの仕事をしていると、頭の方が先行してしまう部分って、沢山あるじゃないですか。でも河野知美という俳優はそれとは真逆の部分を使っている気がしています。単純に“物怖じ”しないんだけなんですが…。“壊れる”ことを求められたら、もちろんその領域に飛び込む度に滅茶苦茶恐怖を感じてはいるんですけど、同時に、行けるはず、行きたいって感じている自分もいるんですね。最終的にそこに踏み込めるか、踏み込めないかと言えば、多分、踏み込んでしまえる俳優なんじゃないかなと自分では思っています。なので私自身というよりは、周りが大変なんじゃないかと思います。『ザ・ミソジニー』でミズキ役を演じている時、劇中では出てこないお父さんの足が見えたり(笑)。そんなこともありました。

OIT:え、実際にないものが見えちゃうんですか?
河野知美:そのキャラクターになり過ぎていたのかな。その“お父さん”は、消されて、実際にはそこにいない存在なんですけど、そのお父さんの足がなぜか見えてしまったことがありました。

OIT:“魂”と“塊”という字が似ていて気持ち悪い、というようなセリフがありましたが、このセリフに限らず、凄くリアルに響くんですよね。
河野知美:それはすごく嬉しい感想です。非日常的なセリフをいかに自分のものにして言うか、ということは本読みの段階からかなり重視していた点でした。最後の病院のシーンのセリフもそんな感じですが、客観的にお客さんとしてこの映画を見た時に、一番好きなシーンなんです。心から「はあ〜、良かったなあ」って優しい気持ちになれる。人によっては凄く悲しいシーンかもしれないけど、背負ってきたものが全部流されて、本当に安心してるんだなって思って。女役に、良かったね、頑張ったね、と言ってあげられるあのシーンが大好きです。

OIT:この映画って、話としては結構悲惨な話ではあると思うんですけど、見終わった後の感覚が妙にすっきりしてるんですよね。それが凄いなと思って。
河野知美:それが多分、越川監督がこの映画に与えたかったものだと私は思います。監督が“すっきり”な感覚を与えたかったかはわかりませんが、最後の最後にキラキラ光る海の映像を入れたのは全てを水に流して二人を海に還してあげたいからとおっしゃっていたかと思います。

OIT:最近はアメリカでもヨーロッパでも、女優さんが自分でプロデュースをする作品が増えてますよね。しかも、そうした作品で良い作品がどんどん出て来ています。
河野知美:ミア・ゴスもそうですね。『X(エックス)』(2022)と『パール』(2022)!

OIT:では、日本のミア・ゴスということで。
河野知美:全然もう、光栄です(笑)

OIT:日本からもA24のモダンホラーとかフォークロアホラーのような美しい作品が出てくると面白いですね。
河野知美:実は、高橋(洋)さんと白石(晃士)さんと新企画を進めています。お二人とも脚本を絶賛執筆中ですが(笑)。私というプロデューサーが入ることで、今までとはまた違う形のJホラー映画が生まれてくればいいなという意味では多分、ミア・ゴスがやっている挑戦と相違はないと思うんですが。

OIT:個人的には美しいホラー映画を見たいなとは思います。色彩とか、ファッションとかも含めて。
河野知美:そうですね、だから私は『ザ ・ミソジニー』を製作する際、脚本がかなり難解だったので、ロケーションから、衣装から、まずビジュアルをポップにして見やすさの窓口を作りましょう、と監督に提案しました。今後もそうした匙加減を大事にしながら映画製作はしていきたいです。

OIT:そちらの映画も楽しみにしております、本日はありがとうございました。

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