OUTSIDE IN TOKYO
MATSUBAYASHI YOJU INTERVIEW

松林要樹『オキナワ サントス』インタヴュー

4. 前半は僕も何を撮ればいいか分からなかった

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OIT:松林監督は、今は基本的には沖縄ベースなんですか?元々は、撮影があると、色々な所を飛び回ってたんですよね。
松林要樹:そうなんですけど、コロナ禍で、去年のこの時期からほぼ沖縄県のネタしかやってません。気になってたけど手を付けてなかった取材先を、もう一回、一回洗って、駆け出しのADみたいな感じで取材してます。NHKの番組から依頼されてるんですけど、最近は、その後映画に展開するハードルは低くなっている感じがします。プロデューサーがちゃんとその辺の交渉をやってくれるようになりました。実はNHKのBS1スペシャルで放映された番組と、『オキナワ サントス』って買取なんですよ。普通はあまり無いケースで、ドキュメンタリージャパンの橋本さんっていうプロデューサーがすごく出来る方で、あの方にやってもらってなかったらこういう形で映画にするっていうのは難しかったと思います。本当に運が良かったというか、支えてもらってます。
OIT:もう一人クレジットされている方がいて、整音で川上拓也さんという方がクレジットされています。撮影されてる地域がブラジルなわけなんですけど、鳥の鳴き声とか自然の気配みたいなのが残ってて、会話してる後ろで鳥が鳴いてる、車がビュンビュン走ってる音じゃなくて、そういう音は同時に録音したものですか?
松林要樹:同時に撮ったものと、貰ってきた音もあります。
OIT:やっぱり、追加で入れてるものもあるわけですか。
松林要樹:はい。今回の場合は、川上さんは本来、そこら辺をしつこくやっていく人なんですけど、依頼して完成までの期間と支払えるギャラがそんなに無かったので、基本的に僕が持ってきた素材から作ってもらってます。
OIT:でもいい音も残ってましたよね。
松林要樹:やっぱり川上さんがすごく、やってくれたなっていう感じがします。僕がやってる時と随分印象が変わったなって思いますから。川上さんにしてみれば、多分そんなに時間かけずにやったって感じだと思います。それは時間も、僕の予算も無かったということですけど。
OIT:そういう音の南国的な部分が残っていたり、あと前半で監督が、移民の方々に子供の目にはどう映っていたかっていう話を聞いてたり、ちょっと朗らかな部分もあるわけなんですよね、前半は。そういう部分も結構いいなと思って拝見してたんですが、途中からトーンが変わる。それは取材をされた日系人の方から電話があって、私達の場面は使わないで“沖縄さん”の方をやった方が面白いよという連絡があったことを明かす辺りからですが。そこから映画が核心に入っていくような気がしたんですけど。
松林要樹:そう言っていただけるとすごくいいですよね。前半は僕も何を撮ればいいか分からなかった感じがあるんですよ。初めに行った日系人の人達のところだけだったら映画にならないよなっていう感じがしていたんですが、宮城さん達と会って取材を進める内に、ある一家からそういう連絡をもらうことになるので、これは腹を括って沖縄の移民の人達の映画を作るんだろうって思えるようになった、それから、沖縄県人会の人達と一緒に進み出したら、訴訟の動きとかが出てきた。取材としては、上手くいったかなと。
OIT:そこでは、強制退去だけじゃなくてブラジルにおける日系人社会の中の内地人と沖縄の人の緊張関係が1960年代ぐらいまであったということも描かれています。
松林要樹:その辺は僕がやるよりも前に他の人もやってるはずでしょうし、テレビ番組とかでもそういう印象のものを見たことがある気がするんですけど、日系移民の中の沖縄県の存在っていうのは、日本社会の中では沖縄県はマイノリティで、人口が140万くらいですから1%強くらいですけれども、海外の日系社会では沖縄系は完全なマジョリティなんですよね。沖縄系で成り立っている日系社会っていうのはアルゼンチンだったり、ペルーだったり、ボリビアだったり、そういう南米の国では7割、8割が、日系人といったら沖縄からの方々なんです、ブラジルは1割くらいですけど。そういう人口比率の変化っていうのは、この映画を作る上で、沖縄の移民の方に比べると我々大和の人間というか、その人達が作っているコミュニティの層の厚さが全然違うような気がするんですよね。他の県人会では、3世、4世、5世とかが県民会館の会場にいるっていう風景はあまり見かけないですから。例えば、剣道教室がある場合で言えば、たまたまその地域出身の剣道家がいて道場を持っているからそこにいるみたいなことはあるんですけど、沖縄県人会みたいに、エイサーやったり、空手やったり、三線やったり、そういうことを若い世代もやっているようなことは他にはないですよ。

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