OUTSIDE IN TOKYO
HANAYO OYA INTERVIEW

大矢英代はなよ『沖縄スパイ戦史』インタヴュー

3. 軍隊とともに暮らすことの恐ろしさを伝えないと、
 今再び、軍隊が再軍備されることの本当の恐ろしさを伝えることは出来ない

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OIT:映像で伝えようと思われた時に、他の映画ではどのように伝えているのだろうということを知る為に、色々な作品をご覧になったりしたのですか?

大矢英代:そうですね、普段からドキュメンタリー作品は多く見ているのですが、個人的に好きなテイストというのがあって、例えば、ジャン・ユンカーマンさんの『老人と海』(90)は凄く好きなんです。今回の映画でも、最初は、その人たちと“戦争体験者”と思って接していたんです、“可哀想な被害者”という感覚ですね。それが一緒に住んでいると、今までは1945年に行われた強制移住っていうピンポイントで取材をしていて、そこが人生最大の悲劇であるかのように見ていたんですけど、1945年から始まる戦後の激動の時代があって、家族や兄妹をあれだけ亡くして、自分が親代わりになって妹を育てたり、苦しい思いをして生きてきた人たちの戦後が見えてくると、島の人たちの“人生”を広い意味で捉えられるようになって、単なる悲劇ではなくて、みんなの人生の中に刻まれた記憶のようなものとして捉えられるようになっていきました。

ですから、私が最初に“戦争体験者”として取り囲んでいた柵が、次第に取り払われていくような作業が波照間ではあったんです。私が、最初に作った映像では、お爺ちゃんが海水を汲みに行くシーンから始まるんですけど、それを家に持ち帰って、海水で豆腐を作るんですね。“にがり”がないので、波照間では海水で豆腐を作るんですよ。そうして自然とともに生きて、自然から食料をもらって生きてきた人たちの生活を淡々と撮っていました。そうした中で、自分は実は字が書けないんだって言うんですね。それで、なんで?って聞くと、あの時、学校に行けなかったから、強制移住をさせられて、マラリアに罹っていたからという話が出てくるんです。そういう映像は、突然現地に行って撮ろうと思っても、なかなか出来なかったと思うんです。
OIT:今回の作品の共同監督、三上智恵監督(『標的の村』(13)『戦場ぬ止み』(15)『標的の島 風かたか』(17))との共同作業は、どのような形で実現したのでしょうか?

大矢英代:三上さんは今までに既に3つの作品を作られていますけれども、三上さんも自衛隊の問題を扱いたいというお考えがあって、去年の5月位に“少年護郷隊”の企画が出たとき、いわゆる沖縄の地上戦ではなくて、住民虐殺やスパイ虐殺といった事態の中で、軍隊の暴力によっていかに住民たちが戦いに利用されて、最後は捨てられたか、軍隊とともに暮らすことの恐ろしさを伝えないと、今再び、軍隊が再軍備されることの本当の恐ろしさを伝えることは出来ないという共通の認識を三上さんも私も持っていて、それを映画で伝えたいと思ったんです。実は、最初はテレビ朝日の番組用の企画だったんですけど、企画が通らなかったんですよ。それでも、絶対にやりたいという思いがあったので、映画でやろうということになったんです。
OIT:三上さんとはどのような作業分担をされたのでしょう?映画を一見した感じでは、真ん中の八重山の“戦争マラリア”の話が大矢さんの担当だったのかなという印象を受けましたが。

大矢英代:三上さんは沖縄本島、私は八重山とアメリカを取材したという感じですね。それぞれ手分けをして取材したのですが、その段階ではどのような構成になるかは分かっていなかったんです。前編・後編にしようかとか、波照間が最初に来るかもしれないし、“護郷隊”が最初に来るかもしれなかったんですけど、出口はすでに決めていました。沖縄戦が過去の悲劇ではなくて、今の問題であるということを見せなければ意味がないと思っていましたから。
OIT:構成はお二人で話し合って決めていったということですね。

大矢英代:そうですね。三上さんと私で、それぞれ粗編をしていたのですが、それを三上さんが2月中旬位に東京に持ってきて、初めて素材をくっつけたんです。それから、プロデューサーの橋本(佳子)さんも含めて、さあ、どう料理しようか、という感じで作っていきました。
OIT:とても見事に構成されていると思いました。最初の少年兵のエピソードからして、かなり強烈です。アーカイブ映像には見るのも辛いものも含まれているのですが、しかし、そこを避けては通れないわけですね。同時に、それらのアーカイブ映像のほとんどはアメリカ国立公文書記録管理局が所有しているもので、最近見た映画では『ゲッペルスと私』(16)というドイツで作られたドキュメンタリー映画でも、悲惨な戦争被害のアーカイブ映像を目にすることになるわけですが、そこで使われているのもアメリカ国立公文書記録管理局やスティーブン・スピルバーグ財団が所有している映像ですから、どうしても、世界の非対称性ということを感じざるを得ません。

大矢英代:そうですね、「敗者は映像を持たない」という有名な言葉もありますから。

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