OUTSIDE IN TOKYO
HANAYO OYA INTERVIEW

大矢英代はなよ『沖縄スパイ戦史』インタヴュー

4. “山下”を悪者にするのは簡単ですけれども、
 あなただったらどうする?と問うことで、社会の中の自分が見えてくる

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OIT:この作品の“スパイ虐殺”のエピソードの中に、当時の悲惨な状況を語るシーンがあって、その時に語っている人の表情が、悲惨な話をしているにも関わらず、表情が笑っているんですよね。こうしたことというのは、フィクションでは中々表現が難しいことで、ドキュメンタリー映画ならではの瞬間だと思いました。

大矢英代:沖縄戦体験者の取材をしていると、そのような場面に出会す場面がたまにあるんです。悲惨な話をしていても、顔は笑っている。何でそうなるんだろうと考えるのですが、恐らく、自分の中で精神のバランスを保とうという意識が働くのかなと思うんです。やっぱり、戦争体験者の皆さんはPTSDを持っていると思うので、悲惨な体験の記憶が蘇るたびに、どこかで安定を図ろうとするのかもしれないですね。
OIT:PTSDということで言えば、少年兵で“兵隊幽霊”と言われた良光さんの存在が際立っていましたが、“戦争マラリア”に登場する“山下虎雄”という人物も別の意味で際立っています。

大矢英代:“山下虎雄”って、陸軍中野学校から島に配属された時の年齢が20代前半なんです。それって、私が初めて“戦争マラリア”を知った時と同じ年齢なので、恐らく同級生位なんですよ。だから、私はつい“山下”に自分を重ね合わせて見てしまうんです。もし自分が陸軍中野学校を卒業して、いずれ米軍が上陸する時に備えて、南海の孤島に送られて、民情視察とか、地形を調べ上げて地図を作れとか言われたら、私、どうしてただろう?って、私も同じことをやってたかもしれないとか思うんです。私には、“山下”がいわゆる“鬼軍曹”のような人には思えなくて、もちろん、島の人たちの話を聞くと、そういう風に思うんですけど、自分と重ね合わせることで、一青年としての“山下虎雄”が見えてくると、恨むとか憎むという気持ちよりも、一人の人間として見えるようになってくる、そういう気持ちはありました。
OIT:でも、“山下”の取材を長年していた宮良さんが録音されたテープには、「軍が横暴な振る舞いをするようなことは一切なかった。このことは断言出来る」というような発言も残されていて、こうした一方的な“断言”を耳にすると、例えば、最近の“モリカケ問題”などを巡る政治家や官僚の嘘くさい発言が直ちに想起されたりもします。

大矢英代:本人は本当にそう思っているのでしょうね。
OIT:そうなんですよね、本人は本気で“国民のため”と思っている可能性がある。これは極めてアクチュアルな問題で、現代もその状況が続いている。

大矢英代:本人は上からの命令に従っただけで全く悪いとは思っていないんですよね。これは現在、国会で起きている“責任逃れ”と全く同じことだと思いますけれども、日々の私たちの生活とも結構繋がるところがありますよね。私が記者の頃は、やりたくない取材でも、デスクから“行け”と言われれば、行ってましたし、命令に順応していくシステムとか関係性というのは、大なり小なりどこにでもあって、そこで抗えるかどうかって、かなり難しい問題ですよね。これはですから、単なる昔話ではなくて、そうした命令が下りてきた時に、私はどうできるか、あなたはどうできるか、ということを問うてほしいと思うんです。“山下”を悪者にするのは簡単ですけれども、じゃあ、あなただったらどうする?と問うことで、社会の中の自分が見えてくると思うんです。

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