OUTSIDE IN TOKYO
REHA ERDEM INTERVIEW

TIFF2010アジアの風部門で「躍進トルコ映画の旗手 レハ・エルデム監督全集」と題し、『月よ』(88)、『ラン・フォー・マネー』(99/TIFF00で上映)、『ママ、こわいよ』(04)、『時間と風』(06/TIFF06で上映)、『マイ・オンリー・サンシャイン』(08)、『コスモス』(09)の全6作品が特集上映された。

最新作『コスモス』は、タル・ベーラの『ヴェルクマイスター・ハーモニー』を想起させる悪夢的想像力が炸裂し、『グリーンマイル』的超能力を持つ恋する主人公コスモスが国境沿いの政情不安な街で騒動を巻き起こす怪作。『マイ・オンリー・サンシャイン』は、饐えた腐臭を放ちながらも耽美な魅力に満ちたロリータ的に屈折した官能の世界が、突如カラックス的な若い恋人たちが駆け抜ける躍動感溢れる映画に変貌を遂げる異形の青春映画。いずれの作品も、映像と対等な役割を果たす音響の独自の存在感が際立ち、しばしば時ならぬブラックユーモアすら漂わせ、観るものをギョッとさせる。コンペティション部門で上映された『ゼフィール』(ベルマ・バシュ監督)といい、エルデム監督作品といい、躍進目覚ましいといわれるトルコ映画の実力を証明する素晴らしい作品と出会うことができたのも、映画祭ならではの楽しさだろう。

今回が3度目の来日とのことで、既に鎌倉の小津監督のお墓参りも経験済みのエルデム監督は、取材場所であった六本木ヒルズ49Fから関東平野を見晴らし、その日の暴風が吹き荒れる東京の空模様にすっかり魅了された様子。まるで監督の作品の空のようですね、と言うと人懐っこい笑顔を見せて頷いてくれた。

1. コスモス(主人公)は、私にとって理想的な男なのです

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Outside In Tokyo(以降OIT):『コスモス』について、作られた最初のイメージをお話し頂けますか?
レハ・エルデム(以降RE):コスモス(主人公)は、私にとって理想的な男なのです。実際にこういう人物がいるわけではありませんが、人々に品位を施す人物なのです。現実性があるかどうか、それは別の話ですが、物質的なものと物質的でないものの間を行き来している、あるいはそういう意思のもとにある人物、非常に気前が良くて、盗んだお金も決して貯めるということはしない。そして働くことを拒み、恋が欲しいんだと言って、恋の後を着いていくという、ある意味ではありえないような男ですね。今回の撮影地となったカルスという街があります。そこに行ってみると、あたかも時間を超えた空間であるかのようなロケーションが広がっている。このカルスの街の空間と私の頭の中にある人物像が一緒になってこういった作品を作りだしたと言えます。

OIT:映画の中で、さまざまなノイズ、銃声、動物の鳴き声といったものがとても際立って聞えてくるわけですけど、それについてどう意識されていたのですか?
RE:私は映画を作る上で、映像と同程度で音に重きをおいています。映画の半分は映像ならば、半分は音なのです。映画に付随するものだと捉えていなくて、音自体を一つの単体として捉えています。映画が終わった時に、それ自体が意味を持っているという、リズムを持つんですね、ミュージカル映画であるといってもいいかもしれません。それ自体が一つのバンドなわけです。この中の物事はフレームの外の世界へ過ぎて行くのですが、そういった一連の問題が、そこでは音であらわされている。国境があってその向こうで戦争がある、そういった雰囲気が漂ってきます。それは音だけで分るもの、映像だけでは分らないようになっています。動物の鳴き声もありますし、ピピピッという電気音もありますけれど、そういうのも後になって、人工衛星のことを想像させることになるわけですね。そういったことは、音を入れることで効果を上げています。一つのカットとカットの連なりだけではなく、それをアレンジするための一つの音自体がバンドになっていると考えられます。

OIT:構想の時点ですでに、その音も含めて構成を考えて書いてらっしゃるのでしょうか?
RE:そうです。

OIT:『マイ・オンリー・サンシャイン』も音の際立ちというものを感じるわけですが、それもやはり同じような感覚でしょうか?
RE:そうですね。

OIT:それは映画にあわせて違うものになっていくのか、映画を作るにあたって全体に通底して流れる音の感覚っていうのはあるんですか?
RE:それは別々です。というのは、映画それぞれの背景が違うし、リズムが違っているので、それぞれにあてはめる必要があります。映像を作る時に、映像を作りながら音を入れているんです。一緒にやりながら調整をしているんですね。なので、映像を作ってその後から音をかぶせて合わせるというやり方はしていません。

TIFF 第23回東京国際映画祭
公式サイト
http://www.tiff-jp.net


TIFF 第23回東京国際映画祭【アジアの風】

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