OUTSIDE IN TOKYO
SUZUKI TAKUJI INTERVIEW

鈴木卓爾『ジョギング渡り鳥』インタヴュー

10. ホン・サンスを一番最初に見た衝撃って、
  やっぱりちょっと貴重な時間だった

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OIT:映画内映画を撮ってる、あのシーンは面白かったですね。
鈴木卓爾:ああ、柏原君っていうのがまたちょっと変わった俳優さんで、ああいうことが出来ちゃう、なんかすみませーんとか言いながら全然謝っているように見えない、いきなり遅刻してくる、昨日撮ったの消えちゃいましたとか(笑)、何にも考えてないですって、かなり滅茶苦茶。
OIT:女優役の古内さんは、ちょっとマジで?みたいな感じで、もっとちゃんとやらないの?みたいな話になる。ああいう設定は出来てたんですか?
鈴木卓爾:あれは出来てました、エチュードで作って、なんか来て転ぶっていうことまで決まってたんじゃなかったかな。クランクアップして最後に告白するじゃないですか、あそこは全く練習してないんです。だけど告白した後に古内さんが受け入れるのかどうなのかは僕らには分からないので任せますと、そのジャッジは古内さんしか出来ないのでどうするかは任せますって言って、もう本番回してる感じです。
OIT:あれはいいジャッジでしたね、古内さん。
鈴木卓爾:あれは全体が素晴らして、その後じゃあね、って言って帰っちゃっうのを追いかけていく、その後もなぜか完璧に出来てる、向こうまで走ってくよとかそういう話はもちろんしてるんですけど。ただ古内さんがあそこでどういう反応を示すかは、おそらくテストで1回やって本番いくよっていうぐらいで撮ってる、もうそういうカメラ位置ですよね、何が起きてもいいよという。それを見てる小田原君がやってるよく分からない古本屋の店主が今度はUFO持って、とぼとぼ歩いてくじゃないですか、あそこまで撮れて良かったなと。やりたかったことってひょっとしたらそういうリレーのようなことだったかもしれない、二人の問題だったことが終わって一人残ってこっちの話になってくみたいなことで、本当はもっとシンプルに群像劇を語れたらいいんですけど、レイヤーとして。そんなにシンプルに綺麗にいかないからホン・サンスにはなれないなって僕はすごく思う(笑)、ホン・サンス頭いいなと。
OIT:ホン・サンスはプロの役者しか使わないんですよね。
鈴木卓爾:あ、そうですよね。
OIT:以前、インタヴューをした時に聞いたのですが、なぜかと言うと、素人は表情が“屈曲”するからだと、役者は表情で伝えますよね、プロはそれを的確に伝えることが出来るけど、素人の表情は屈曲しちゃうから、余計なノイズが伝わっちゃうから使わないと。それはホン・サンスらしいなと思ったんですよね。すごい計算してますよね。
鈴木卓爾:1カット目から道に立ってるだけの場面からよーいスタートして、パーンしてこんにちはとかってやってるのを見た時はちょっとぶっ飛びましたけどね、なんじゃこりゃみたいな、簡単だなシンプルだなっていう。
OIT:何も考えないでぱっと作ったみたいに見えるっていうやつですよね。
鈴木卓爾:だってそこら辺で撮ってるでしょこれって、ロケハンとかしてる?っていう、まあしてるんですけど、何度もそこが出てくるからね、やがて。だけどホン・サンスを一番最初に見た衝撃ってやっぱりちょっと貴重な時間だったなって。
OIT:いつぐらいですか?
鈴木卓爾:それはでもね、最近です、結構最近見て、あ、もう分かったっていう感じ(笑)、その後に『3人のアンヌ』(12)を見た時に、こうやってレイヤーというか、本を読むみたいに、場面転換ですよね、舞台のような、そういう大きな腑分けがあるわけだという風なことを考えながら、まあちょっと焼きもち焼きたくなる感じでした。
OIT:監督は、ホン・サンスがよくやる反復的なことっていうのはあんまりやってないですか?
鈴木卓爾:台本でよくやってました、『さわやか3組』(NHK Eテレ)とか『中学生日記』(NHK)はかなりミニマリズムをやってたんです。『ワンピース』(1995〜2016)でも初期の頃は1カットなんですけど結構ミニマルな反復で進行していく、段々こう変奏されていくっていう発想は元々影響が強くて、何からの影響だったかわからないんですけど、むしろ『私は猫ストーカー』以降はやってないんです。今は、かなり物語的にきっちり人を描くっていう風になってる、元々90年代は矢口さんと一緒に台本やったりしてたんで、繰り返しの面白さを追求してた。例えば『恋はデジャ・ブ』(93)っていう映画、ビル・マーレイ主演のハロルド・ライミスっていう『ゴーストバスターズ』(84)に出演してる人が監督した、一日を繰り返すタイムスリップものなんですけど、そういう反復の構成で段々抜け出せなくなってる、毎日同じ一日を繰り返してるっていうことに気付く、そこから抜け出そうとする男の話だったり、今はもうやらなくなっちゃった。
OIT:もうやっちゃってたんですね。かなり映画的なモチーフですよね、実験映画でも昔からありましたよね。
鈴木卓爾:そうですね、『ふくろうの河』(61)は反復はしてないか、ロベール・アンリコの。
OIT:昔見た映画でタイトルが思い出せないのがあって、兵士が首つり自殺かなんかする。
鈴木卓爾:えっとね、絞首刑にあうんですよ、それがね、ロープが切れちゃうんです、水の中に落ちて逃げるんですよね、っていうのが、『ふくろうの河』っていう映画です。
OIT:ああ、それがそうでしたか。昔何かで見て、タイトルを忘れてたんだけど強烈に印象に残っていて。
鈴木卓爾:十何分位の短編。夢オチっていうやつですね。
OIT:今日は、長時間に亘ってありがとうございました、とても刺激的な話が聞けて嬉しかったです。
鈴木卓爾:こちらこそ、ありがとうございました。


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