OUTSIDE IN TOKYO
SUZUKI TAKUJI INTERVIEW

水木しげる的不穏さを充分に醸し出しながらもバランスの取れた商業映画として成立している『ゲゲゲの女房』(10)から、有機的な製作方法で、思春期特有の子供達の繊細な息づかいを”生き生きとしたもの”を殺さずに映画に映し込んだ、類い稀なる”音楽映画”『楽隊のうさぎ』(13)と、映画作りのより”自由なプロセス”を探求してきた鈴木卓爾監督の最新長編映画『ジョギング渡り鳥』は、ついに、”脚本”を手放すだけではなく、映画制作者の武器である”カメラ”と”マイク”までを俳優陣に拡散させ、誰もが撮影する現代という時代における映画製作の柔軟な武装解除を試みる。21世紀の不寛容な気配が濃厚に立ち込める現在において、”自由への遁走”を敢行する『ジョギング渡り鳥』は、と鼻息荒くまくしたてることが不釣り合いなほど、曰く言い難い天使的な優しさに満ち、”自由”への欲望を強かに伝染させる映画である。

しかし、その”優しさ”の背後には、カラックスが『ホーリー・モーターズ』(12)で予見した”増殖するカメラ”、ゴダールの3D映画における”映画を再発見する試み”、映画美学校や「シネマ☆インパクト」、濱口竜介の『ハッピーアワー』(15)が突破口を開いた”ワークショップ映画”の興隆といった、現実がフィクションの上をいく21世紀的現実への挑戦であり、21世紀的フィクションの挑発であるような映画群とのテレパシー的交流があるに違いなく、ヴェルトフの『カメラを持った男』(29)に若き日に刺激を受けた映画作家鈴木卓爾が、21世紀にSF的意匠を纏った”カメラを持った宇宙人”を撮ったとしても全く唐突なことではない。むしろ問題は、脚本で参加した『さわやか3組』や『中学生日記』といったNHKのテレビドラマが高い評価を受け、実はすでにお茶の間に浸透していたことになるこの映画作家の作品を、私を初めとして、まだまだ多くの観客が見逃してきたことにあるように思われる。今回の『ジョギング渡り鳥』の公開にあたって同時開催される鈴木卓爾監督作品特集上映が、そうした観客に挽回のチャンスを与えてくれるものであるに違いなく、何はともあれ、夜の新宿の街に繰り出し、21世紀ならではのフィクションの現在を全身で受け止めたいと思う。

1. 映画美学校のアクターズ・コースのカリキュラムは、
 人間になる訓練をしているみたいだった

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OUTSIDE IN TOKYO(以降OIT):まず最初に、今回の映画を作るに至った経緯を教えて頂けますか?
鈴木卓爾:映画美学校のアクターズ・コースが始まって、ずっと俳優に演技を教えることの難しさってあるなって思ってたんです。タイミング的にひとつは山本政志さんの映画塾「シネマ☆インパクト」で『ポッポー町の人々』(12)を撮った、その年にアクターズ・コース一期生の高等科に進んだ11人の生徒がいて、最初に、何をやりたい?って聞いたところ、合宿に行ってその日何を撮るか考えて映画を撮影して、夜はみんなで飯食いながら明日何を撮るかを話し合う、そんなことをやれたら最高だなぁとか言ってた。アハハで笑って済ませれば良かったんですけど、何か思う所があった。『ポッポー町の人々』を撮った時は、準備から何から始めて終わるまで二週間のカリキュラム時間しかなくて撮影日数は三日しかない、その時やっぱり10人くらい集まった生徒達の一人一人の人柄を撮るというのがストーリーを撮ることよりも僕には面白かった。『ポッポー町の人々』は、群像劇ではあるけれどメインになる大きなストーリーって何だっていうと特になくて、ちょうど撮影が震災から一年後の2012年の3月11日だったので、それがテーマになりました。

『ジョギング渡り鳥』の場合は、映画美学校で一年一緒にやっていて、二年目のタームになってる彼らの間合いの良さ、一つの劇団のようにお互いに気心が知れてる分の近さっていうのかな、そこで何かを撮れると面白いんだろうなと思っていたんです。そのカリキュラムの中に劇団青年団の俳優をやっている講師の人達の授業で、“ビューポイント”っていうのがあって、美学校のミニスタジオの空間を使って、ただ歩く、みんな一斉に真っすぐ歩く、人とぶつかりそうになったら右に行くとか、そういうルールで動いている彼らに、俳優講師の山内健司さんとか兵藤公美さんが、右に行こうとか段々動きを付与していく。役があるとかそういうこととは無関係に、今この10人で動いている感覚と意識の持ち方みたいなことを鍛える、磨き上げるみたいなカリキュラムだった。あと“ミラーリング”っていって、相手の動きに合わせて鏡的に自分も同じ動きをやるとか、“レピュテーション”っていって、例えばシナリオがあるんですけど、その台詞を相手が言う、言うとその台詞がいまいち自分にしっくり届かないなっていう時はオウム返しする、「こんにちは」「こんにちは」と、また「こんにちは」「こんにちは」ってずっとやるんです。
OIT:相手に届かない場合はオウム返しする?
鈴木卓爾:はい、届いたら次に進む。なんかその一つ一つが、僕は映画監督をやっていて俳優もやってますけど、そういう教え方っていうのは知らなかったので新鮮だった。
OIT:それは元になるメソッドみたいなのがあるのですか?
鈴木卓爾:あるのかなぁ。多分、俳優同士の掛け合いの意識の持ち方と、言葉を聞き逃さない感覚と、自分が発音する言葉、相手に聞かせる言葉の深度を深めるということですね。だから本当に芝居って何だろうなということを考えさせられる、『楽隊のうさぎ』(13)で言うと音の出し方にも喩え得ると思うんですけど、適当にやると届かないんですね。しっかり投げないと相手にズバンといかないみたいな感覚ってあるじゃないですか、野球のキャッチボールみたいに。やっぱり真に相手にどうやって入れるのか、この入れ方自体は分からないけどっていうのを体感する面白さみたいなことから、俳優というより“俳優間”のことをやってるっていうのかな。映画美学校の地下スタジオでそれを延々やってるのを見てると、みんな人間になる訓練をやってるっていう風に見えてきた。僕達はフィクションとかお話しとか、そういう現実じゃないけどまるで現実のようなものを舞台とか映画で演じるんだけど、その最初の段階のメンテナンス作業をやっている状態って本当に人間になる訓練をしているみたいだと思ったんです。
OIT:赤ちゃんが親の真似して繰り返したり。
鈴木卓爾:そうですね、どういう笑顔だと親が笑顔を返してくれるのかとか、人間って生まれた時からまさしく芝居をする、なぜするのかっていうと、多分相手から受け入れられたいからだったりするんじゃないか、なんかそういうことを映画美学校のアクターズ・コースでやってるんです。

『ジョギング渡り鳥』

3月19日(土)より、新宿K's cinemaにて公開

監督:鈴木卓爾
撮影監督:中瀬慧
音響:川口陽一
助監督・制作:佐野真規、石川貴雄
編集:鈴木歓
ロケーションコーディネート:強瀬誠
宣伝統括:吉川正文
宣伝デザイン:三行英登
照明応援:玉川直人
撮影応援:大橋俊哉
音楽:小田篤 坂野アンナ
UFO、竹とんぼ、ぱたぱた制作:中嶋義明
題字:田中美穂
出演:中川ゆかり、古屋利雄、永山由里恵、古川博巳、坂口真由美、茶円茜、矢野昌幸、小田篤、古内啓子、柏原隆介、小田原直也、吉田庸、佐藤駿、山内健司、兵藤公美、古澤健

© 2015 Migrant Birds Association / THE FILM SCHOOL OF TOKYO

日本/2015年/157分/カラー
製作・宣伝・配給:Migrant Birds Association

『ジョギング渡り鳥』
オフィシャルサイト
http://joggingwataridori.jimdo.com
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