OUTSIDE IN TOKYO
MIYAKE SHO INTERVIEW

青山真治『共喰い』インタヴュー

3. 田中慎弥さんの世界と荒井(晴彦)さんのシナリオ、その二つと格闘しましたね

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OIT:そうだとしても、結果的には一番面白い日本映画を撮っていますよね。結局、この『共喰い』で。多分若い人が観ても、新鮮というか鮮烈というか、そういうものを結局撮っているという。
青山真治:あの、手持ちカメラっていうのが分かんないんですね、俺。手持ちカメラで人をこう追っかけていって、しかもカットはきっちり割られてて、それが時々拝見する日本映画で見られた時、これは俺はやらんなという風なことがまずベースにあるんですよ。今までも見てる映画って黒沢清の映画くらいなんで、黒沢さんはやらないですからね。だから黒沢さんと俺ぐらいか、フィックスでちゃんと足据えて移動してんのっていうぐらいの認識しかないんで。単純にああやって撮りたくないっていう、ああやって撮るのはやだっていうそれだけの理由なんだけど。その中でやらないとやだっていうことがあるんですよね。それも作り手としての自分の主義主張みたいなもので。

OIT:『東京公園』の時は原作がありましたけど、脚本に関わられていましたよね?
青山真治:そうですね、三人(青山真治、内田雅章、合田典彦)で書きました。

OIT:今回は完全に荒井さんにお任せしたと。
青山真治:そうです。

OIT:それをもう画に撮るだけという。
青山真治:そうです。

OIT:それは新鮮なのか、楽しいものなのか、どういう感じでしたか?
青山真治:正直に言うと難しかったですね、というのは、荒井さんのホンって一つの作品になってるんですね、シナリオが作品であるべきなのかどうなのかっていう議論はさておき、一個の作品であることは間違いないんです。それを映画にするってなった時に、監督の、何て言うんだろうな、能力が問われてしまう脚本なんですよね。つまり僕が自分で自分の作品のシナリオを書いたら、そこにはある種カット割りみたいなものが文章の中に成立してるんですけど、荒井さんの場合は無いんですよ。だから一回それを自分なりに腑分けしなきゃいけないんですね。その腑分けした時に荒井さんの作品としてのシナリオが一旦壊れる、それはもう向こうも了解してるわけですけど、どう壊すかなんですね、向こうにも気持ちのいい壊し方があるだろうし。こうする、ああするって別にお伺いをたてるわけじゃなく勝手にやっていくわけですけど、その時にいちいち立ち止まらざるを得ない。荒井さん、こう割ったらどう思うかなとかね、そういうことを考えながら現場でやるのって結構難しい作品でしたね、僕的には。

OIT:気を使ったっていうことですか?
青山真治:気を使ったっていうよりは、いちいち勝負をする、勝負をするっていうのも変だな、なんか。

OIT:荒井さんはカット割りは考えてないんだけれども、ご自分のイメージはある。
青山真治:あるじゃないですか、当然ね、シナリオですからね。そこにも変な言い方すると勝たなきゃいけないし、もう一つ、田中慎弥さんの世界にも勝たなきゃいけないから、その二つと格闘しなきゃいけない。しかも現場っていうものがまた、現場として動かしようのないものとしてあるわけじゃないですか、それをどう撮るかねみたいな、結構格闘しましたね、悶々としましたね。自分がシナリオ書いてりゃ楽なんですけどね。

OIT:現場に入る前にカット割りは決めていますか?
青山真治:いや、決めてないです、全部現場です。僕はシナリオを持って現場に入って、役者が芝居をして、はい、じゃあこういう芝居になるんで、こういうカット割りにしますっていうことを言って、そこからですからね、役者の芝居を見るまでは、ほぼ考えてないです、あるいは現場に行くまでは。現場に行ってから、よしこうしようとかっていうのを思いつく時はあるんですけど。

OIT:こうしようというのを決めてから撮り始めて、ちょっとやっぱり違ったなとか、そういう試行錯誤はありますか?
青山真治:そういう瞬間もあります、そういう瞬間も無いでは無いです。ただ一回、こうしようって決めたらあんまり動かさないですね、僕の場合は。

OIT:去年、日仏学院(アンスティチュ・フランセ)の特集上映でラウル・ルイスの映画を結構見ることが出来て、ラウル・ルイスは現場でハプニングを起こして、かなりスタッフを困らせたりとか、そういうのを楽しみながら撮っていたという話を(ラウル・ルイス作品に多く出演しているメルヴィル・プポーから)聞いたんですが、青山さんの現場ではどうなんでしょうか?
青山真治:どうなんでしょうね、光石さんがシャッター商店街を歩くシーンがあるんですよ、あそこは本番直前に、光石さん、最後のあそこの角曲がった所で走ってください、って言ったんですね、そしたら、テスト段階では走らずに下がっていったんで、キャメラも普通に下がっていったんですけど、あそこで突然走り出したんで、キャメラ周りの人間が全員びっくりしてうわーっと下がったんですよ(笑)。後で聞いたら、いやあ、今年一番ビビった、ってキャメラマン(今井孝博)が言ってたぐらいですから(笑)、まあそういう時もないとねみたいな感じで、僕もまあラウル・ルイスと同じような楽しみ方をしているのかもしれないですね。

OIT:雨も降ってますし、結構大変なショットですよね。
青山真治:大変な時ほど、悪戯をしたくなる、ということでしょうか(笑)。


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