OUTSIDE IN TOKYO
ENDO MAIKO INTERVIEW

今年、2020年の2月に開催された「第12回恵比寿映像祭」で遠藤麻衣子監督の長編処女作『KUICHISAN』(2011)を初めて見て衝撃を受けたのだが、物語の筋のようなものが一向に思い出せない。”基地の街”沖縄を舞台に、まともな言葉を喋れない”九一さん”が地元の少年たちと荒々しく出会っていき、子供たちがチャリンコを曲芸的に乗り回したりするシーンや、”九一さん”が逃げ回る時の音楽が強く印象の残っていて、映された人々が皆いい顔をしている、そうした断片ばかりが脳裏に残っているが、映画自体に何か言葉で描写されることを拒否するような荒々しさがある。確かに言えるのは『KUICHISAN』では、沖縄の原初的な感性とニューヨーク的ともいうべき都会的に覚醒した感性がスクリーン上で衝突し、ジャン=リュック・ゴダールのソニマージュ的な音と映像の拮抗が作品に圧倒的な強度とスリルをもたらしていたということだ。

(私は見る機会を逸しているのだが)インドとアイスランドでロケをしたという長編第2作『TECHNOLOGY』(2016)を経て、2018年に東京で撮影をした長編3作目『TOKYO TELEPATH 2020』(2020)は、2020年のロッテルダム国際映画祭でワールドプレミア上映、続く同年2月「第12回恵比寿映像祭」で上映、5月には日本公開の予定だったが、コロナ禍で公開が延期、この10月、ついに劇場公開が果たされることになった。『TOKYO TELEPATH 2020』でも、『KUICHISAN』で見られた音と映像のゴツゴツとした実存的感触の確かさ、その強度は変わっていないが、奇しくもプレ東京オリンピック・パラリンピック期の”東京”を捉えた、現代的ポッピズムとその地の古層へと想像の翼を拡げる超越的思考が混交した映像は、来るべき”変化”を予兆させるサスペンスに満ちている。その”変化”がこのような曖昧模糊としたものになるとは、誰も予想し得なかったはずだが、2020年10月現在においても、”プレ東京オリンピック・パラリンピック期”は未だに継続してしまっており、私たちは、更なる”変化”が起きるのか起きないのかが判然としない宙吊り状態を生きている。今やサスペンスが映画ではなく現実となってしまった、この長すぎる宙吊り状態の中で見る『TOKYO TELEPATH 2020』が、私たちの目にどのように映るのか、劇場での再会を楽しみにしている。

1. 服部峻、ニコラス・ベッカーとの音作りについて

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OUTSIDE IN TOKYO(以降OIT):遠藤監督の長編2作目『TECHNOLOGY』(2016)はまだ拝見できてないのですが、『TECHNOLOGY』のサントラを見つけたので入手しました。音の響きが、空間を想像できるような感じで、とても素晴らしくも、なかなか過激な仕上がりなのですが、これは服部(峻)さんが作られたものですね。
遠藤麻衣子:彼の音楽は彼の音楽であって、音自体は彼の持っている音です。それを分かった上で、こういう音楽が欲しいとか、自分が欲しい要素をノートに書いて伝える、それで彼が音楽をいつも作ってくれるという感じでやっています。でも、最初の『KUICHISAN』(2011)の時は、沖縄の撮影にちょっとついてきてくれました。2作目の『TECHNOLOGY』の時は、ノートだけでは分からないって言われたので、じゃあインド行って来てよって言ったら、彼はインドに行ってくれた。それで、帰って来て、また音を作り始めたんです。このアルバムには映画には入っていない曲も入っていて、彼がインドで影響を受けたものも付け足していますので、サントラでもあり、コンセプトアルバムでもあるような作品です。
OIT:音の依頼をする時は、結構具体的にこういう音を入れたいという話をするんですか?NGを出したりとか。
遠藤麻衣子:彼の音楽と、それに加えて効果音がいっぱい入っていて、効果音が重なると音楽にも聴こえてくるから、その境界線が難しいんですね。『TOKYO TELEPATH 2020』なんかまさにそうなんですけど。そういう前提があるので、効果音は効果音であって。音楽は音楽でイメージを伝えたとして、どんなイメージを伝えてもそれからツイストされたものが返ってくる(笑)、結局、あまりNGを出したことはないんです。彼はそういう意味で優れている。凄いクセがありますけど、相性は良いのだと思います。
OIT:遠藤監督の映画には、ほぼ全編に音が入っているような感じですが、効果音や音響的な作業は、ニコラス・ベッカーが担当しているということでしょうか?
遠藤麻衣子:『TECHNOLOGY』と『TOKYO TELEPATH 2020』がそうです。まず私は映画を編集する時に、最初は音楽もないし、なんの効果音もないから自分で音を色々なところから拾ってきて、ラフカットを作って、それをまず音楽家とニコラスに見せるんです。それを見せて、こことこことここに音楽と効果音が必要ですっていうのを投げる、それで向こうから音が返ってきて、音楽をそこにはめる、そして、ニコラスさんから貰った色々な要素の音を自分の中で散りばめて、はめて、調整をしていくっていう作業をやります。

『TOKYO TELEPATH 2020』

10/10(土)〜10/30(金)渋谷・イメージフォーラムにて連日21:00より限定上映!
会期中、遠藤監督の過去作『KUICHISAN』、『TECHNOLOGY』も上映。

製作・監督・脚本・編集:遠藤麻衣子
エグゼクティブ・プロデューサー:山下覚 撮影監督:ショーン・プライス・ウィリアムズ
照明:ジャック・フォスター
音響デザイン:ニコラス・ベッカー
リレコーディング・ミキサー:浅梨なおこ
音楽:服部峻
出演:夏子、琉花ほか

©A FOOL

2020年/日本/49分/DCP/カラー/1:1.85/5.1ch
配給:A FOOL

『TOKYO TELEPATH 2020』
オフィシャルサイト
https://www.kuichi-tech2020.com



『KUICHISAN』

製作・監督・脚本・編集:遠藤麻衣子
共同製作:ジェシカ・オレック、奥田彩子 撮影監督:ショーン・プライス・ウィリアムズ
録音:アレックス・ロッシング
音響デザイン:ブライアン・ハーマン
音楽:服部峻、小林七生、J.C.モリスン、加藤英樹、ブライアン・ハーマン、遠藤麻衣子
出演:石原雷三、エレノア・ヘンドリックス、李千鶴ほか

©Selfish Club Productions

2011年/日本、アメリカ/76分/35ミリ/白黒・カラー/1:1.33/ステレオ
助成:Cinereach



『TECHNOLOGY』

監督・撮影・録音・編集:遠藤麻衣子
製作:遠藤麻衣子、クリストフ・オードギ 製作補:クリスチャン・マンズット、ジャスビール・シン・ソーニー
音響デザイン:ニコラス・ベッカー
リレコーディング・ミキサー:ケン・ヤスモト
音響編集:浅梨なおこ
音楽:服部峻
出演:ボビー・サルボア・メネズ、トリスタン・レジナート、スレンダーほか

© A FOOL, the cup of tea

2016年/日本、フランス/73分/DCP/白黒・カラー/1:1.85/5.1ch
助成:Fonds De Dotation agnès b.
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