OUTSIDE IN TOKYO
JIA ZHANG KE INTERVIEW
ジャ・ジャンクー:オン『四川のうた』

中国の急激な変遷を、一般の人々の目線のままに、映画という語りの中で伝えてきたジャ・ジャンクー監督が、ダムの建設で水没する村を描いた『長江哀歌』の後に作ったのが、この四川省の成都で、50年の歴史を持つ巨大国営工場を舞台に撮影した『四川のうた』。そこで家族と共に暮らし、工場を“故郷”である労働者たちの日常のエピソードを撮りながら、ドキュメンタリーとフィクションを織り交ぜ、偶然にも、世界的に報道された四川大地震前に作られた美しい瞑想のような作品となっている。大躍進政策、文化大革命、高度経済成長期まで、中国の激動の歴史を炙り出す本作で、監督は果たして、象徴的な国営工場の解体・移転という背景と共に、中国が大きな変化を遂げたある時代を撮り終えたのだろうか…。

1. 体制を信頼し依存して生きてきた人々がやっと自分の足で歩き出した

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日本でも、世界的に見ても、昨今、大規模なリストラや大量解雇のニュースが流れています。本作は偶然にも中国の国営工場が閉鎖されていく様子が描かれていますが、日本の観客にどのようにこの作品を観て欲しいと思いますか。
この作品を撮ることについては、宿命的なもの、運命的なものを感じました。この映画を撮り終えてカンヌ国際映画祭に出品したのですが、映画祭の前後に四川省で地震が起こりました。幸いにも自分が撮影した成都の中心部には、それほど被害はなかったのですが、その周囲が非常に大きなダメージを受けてしまったので、正直な話、映画祭に参加する時には重い気持ちになりました。いざ今年になって、世界のあちこちでこの映画を上映する時期になり、去年から金融危機が起こっています。今朝、日本の方から聞いたのですが、日本企業でも大量の解雇があるということで、とても複雑な思いがあります。

僕はそれぞれの国で、文化も歴史も違う中で、過去でも未来でも、それぞれの時代で異なった場所で、金融危機や政治問題など色々な危機に直面すると思います。そういう中でどう自分の作品を観ていただきたいかというと、体制の中で生きてきた人々がそこから放り出されて、初めて自分自身を頼って、自我を頼ってもう一度たくましく生きていく、生き直していくというところを私は希望を持って観て欲しいと思っています。
ちょうどこの作品の中にはホウ・リィジュンという(リストラされた)女性が出てきますが、僕はこの方にこう言われました。「見て、私なんてもう40歳で、しかも子供がまだ中学校に通っていて、一月のお金が200人民元しかないときにどうやって生きていけばいいの?」確かにそれはとても深刻な問題だと思いました、彼女は作品でご覧の通り、自分で困難を乗り越えて自分の生活の再スタートを切っていきます。もうひとつ言えることは、それまでの中国の一般社会の人の暮らし方というのは、彼女のように中国の体制の中で生きていく人、体制を信頼し、依存して生きてきたような人が多いので、それがやっと自分の足で歩き出したところが素晴らしいと思います。

『四川のうた』というタイトルからも分かるように、イギリスのイェーツの詩や、山口百恵の曲、歌謡曲や古典詩など沢山の“うた”を使用されていますがなぜでしょう。
この作品は、僕が今までで一番リラックスし、しかも自由に撮影できた作品です。内容は1950年代から現代に至るまでのこの50年間で中国社会が経てきたもの、計画経済から市場経済への過渡期、人々の生活環境の変化が中国の一般庶民にどのような影響を与え、どのように庶民が暮らしてきたかという物語です。
中国で80年代を生きてきた人にとって、山口百恵さんは共通言語です。これまで中国の社会は、集団でどうやって生きていくかという、あまり個人が大切にされない時代で、禁欲的な社会でした。あまりあからさまに個人の恋愛の話を語ることが良しとされていませんでした。そのような中で彼女が主演した「赤い疑惑」というテレビドラマを観て、中国の大衆は、個人的なラブストーリーをこうやって語っていいのだなと分かりました。その時の主題歌が「ありがとうあなた」という曲ですが、『四川のうた』で色々な方に話を聞きましたが、その様々な思い出の中に、この歌の話が何度も出てきたのです。
山口百恵の曲以外にも色々な流行歌がこの作品の中には挿入されていますが、それは中国社会の変遷の中の、記憶のひとつです。また歌だけでなく、映画の中でポートレイト的な撮影を試みています。毎回取材をした人に肖像画を撮るようにして、長く静止画面で彼らの姿を収めています。このことでより儀式めいた感じになっていますが、これは僕の、労働者の方々に対する尊重の気持ち、尊厳でもあります。
ですから今回の作品は、取材を受けてくださった人々の言葉に頼り、またイェーツの詩や、成都出身の方の詩や、半野喜弘さんや台湾のリン・チャンの曲など色々な“うた”を手法として取り込んでいますが、それが何に呼応しているかというと、僕の切り取った中国の歴史の一部分の複雑さに呼応していると思います。ですから今回の作品は、取材を受けてくださった人々の言葉に頼り、またイェーツの詩や、成都出身の方の詩や、半野喜弘さんや台湾のリン・チャンの曲など色々な“うた”を手法として取り込んでいますが、それが何に呼応しているかというと、僕の切り取った中国の歴史の一部分の複雑さに呼応していると思います。
余談ですが、昨日きっかけがあってDVDで日本の映画を拝見しましたが(『松ヶ根乱射事件』監督:山下敦弘)、三浦友和さんが出演していて、ちょっと太ったなぁと思いました(笑)。僕が昔に見た頃はアイドルのような感じでしたが、とても役者さんらしい方になられたと思いました。


『四川のうた』
原題:二十四城記

4月18日(土)より、
ユーロスペースほか全国順次公開

監督:脚本:ジャ・ジャンクー
撮影:ユー・リクウァイ、ワン・ユー
音楽:半野喜弘、リン・チャン
出演:ジョアン・チェン、リュイ・リーピン 、チャオ・タオ、チェン・ジェンビン
製作:エクストリーム・ピクチャーズ、上海電影集団上海撮影所、華潤置地有限公司、バンダイビジュアル、テレビ朝日、ビターズ・エンド/オフィス北野
配給:ビターズ・エンド、オフィス北野

2008年/中国、日本/HD→35mm/カラー/1:1.85/ドルビーSRD/112分

『四川のうた』
オフィシャルサイト
http://www.bitters.co.jp/shisen/
colossalyouth/
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