OUTSIDE IN TOKYO
KALTRINA KRASNIQI INTERVIEW

マーク・ギル『レイブンズ』インタヴュー

4. 日本の観客のためにこの映画を作りました

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OIT:最初に、この映画を見て驚いたと申し上げたのですが、それは、この映画が完璧な「日本映画」に仕上がっているように見えたからなんです。特にセリフに日本語としての不自然さが全く感じられない。現場では俳優たちがかなり協力してくれたのでしょうか?
マーク・ギル:その言葉が聞けて、本当に嬉しいです。それがまさに私が成し遂げたかったことだからです。いやあ、本当に安心しました。私も、今まで日本映画で、海外の監督が撮った作品を幾つか見てきました。『Mishima: A Life In Four Chapters』(1985)は凄く良かったと思っています。

OIT:ポール・シュレイダーですね。
マーク・ギル:そうです。今回の作品に最大のインスピレーションを与えてくれた作品です。ただ、その他はあまり思い浮かびません。私のまず最初の意図は、日本の観客のためにこの映画を作りたいということでした。そして、私の野心は、今、まさしく仰って頂いたように、日本の観客がこの映画をみて、これは「日本映画」だという認識で見てもらえるということでした。そして、私の最大の野心は、言語が英語であろうと日本語であろうと、監督が透明な存在であるということです。私は、日本映画の監督たちが大好きです。西欧では誰もが知っている黒澤明、小津安二郎はもちろんのこと、女性を描くことが多かった成瀬巳喜男には大きな影響を受けています。それと、西欧では相米慎二が最近やっと発見されたばかりです。彼のことを知っている人はほとんどいなかった。かく言う私も『台風クラブ』(1985)を最近発見したばかりです。イギリスでは、去年の私の誕生日に(笑)、初めて劇場公開されたのです。そして、市川崑作品には多大なる影響を受けています。特に、『雪之丞変化』(1963)には視覚的側面において大いに影響を受けました。『雪之丞変化』のプロデューサーであった永田雅一氏の孫が、この『レイブンズ』のプロデューサーの一人として作品に参加してくれていますが、私が『レイブンズ』のストーリーボードを作った時に最大のインスピレーションとなったのが、『雪之丞変化』でした。

OIT:浅野さんをはじめとして、俳優の皆さんが素晴らしかったのですが、中でも瀧内さんは実に良かったです。監督は、荒井晴彦監督の『火口のふたり』(2019)で瀧内さんを発見したそうですね。
マーク・ギル:実は、日本の女性の俳優のことをあまり知らなかったんです。脚本を書いた時点で、洋子がとても強いキャラクターである必要があることが分かっていたので、そんな人物をちゃんと演じてくれる役者がいるのかどうか、不安でした。それで、キャスティング・ディレクターのMegumi(Fukasawa)さんが、『火口のふたり』を見せてくれたのですが、字幕がついていませんでした。でも、その方が良かったんです。彼女の演技をしっかりと見ることが出来ましたから。『火口のふたり』には瀧内さんが裸の場面が沢山ありますけれど、それで彼女がとても勇敢な女性であるということが分かりました。そして、彼女にはとても存在感があるけれども、儚さもある。私は、彼女から目が離せなくなりました。彼女は、多くの日本の女性の役者とは随分違っているように見えました。それから、Zoomで彼女と対面をして、彼女の知性に大変感銘を受けました。彼女に限らず、この映画に参加してくれた役者たちは皆、聡明な方ばかりでした。

OIT:終盤、深瀬が入院している時に、洋子が「おいっ」って言う場面がありますよね。とてもハッとさせられました。あの場面はセリフでそのように作っていたのか、あるいは、現場で生まれたものなのでしょうか?
マーク・ギル:それは(瀧内)久美さんのアイディアです。私の脚本では“Look at me.”というセリフになっていました。そこがまさに先程言ったことで、私は俳優を信用するしかないんですね。久美さんはもうキャラクターに、洋子になりきっていますから、自然とそういう反応をしてくれるんです。

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