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5. 世界に対して、ある時代の東京を一つのキャラクターとして提示するということ |
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OIT:素晴らしいですね。撮影についても少し聞かせてください。冒頭と最後にトラッキングショットがあります。このアイディアは撮影に入る前から決めていたものなのでしょうか?
マーク・ギル:そうですね、決めていました。ゴールデン街のトラッキングショットのアイディアが浮かんだのは、私が初めて日本に来た2019年のことでした。ある朝、ゴールデン街にいて、ただ歩いていたんですけど、映画の中にいるような気持ちになりました。私にとっての、映画の始まりがそこにあったんです。世界に対して、ある時代の東京を一つのキャラクターとして提示するというアイディアです。そこから深瀬の世界に観客が入り込めるようにしたかった。そして、映画の終わりのところで、洋子にもそのチャンスを与えたかったのです。観客に背を向けるのではなく、観客が洋子をそのまま見続けていて欲しいと思いました。彼女が体験する感情を観客にも追従して欲しいと。そこは相米慎二の影響が現れているのかもしれません(笑)。
OIT:長回しで。
マーク・ギル:そう。
OIT:美術も大変素晴らしかったですね、室内のインテリアも完璧だったのではないでしょうか。
マーク・ギル:金勝浩一さんのおかげです。彼の仕事は2つの映画で見ていました。一つは、パク・チャヌクの『お嬢さん』(2016)の日本で撮影したパートの美術です。それと、『ホテル・アイリス』(奥原浩志/2021)のプロダクション・デザインを手掛けています。彼は素晴らしいチームを率いているのですが、日本の撮影スタッフはあまりにも素晴らしいので、他の国で映画を撮る時が逆に大変です。個人的には本当にそう思っているのですが、役者にとっても良い影響があるのではないでしょうか。そうした素晴らしいプロダクション・デザインのおかげで、浅野さんたち、役者の皆さんにとっても、自分の世界がここにある、ここがホームだ、という感覚を持ってもらうことが出来たんじゃないかと思います。細部への追求が尋常ではないですから。人間だけではなく、そこに存在するものすべてに対して熟練したスキルが感じられるのです。
OIT:セットを使ったわけではなくて、実在する物件を作り込んだということですよね。
マーク・ギル:そうですね、すべてロケーションで撮影して、実在する物件に手を加えています。
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