OUTSIDE IN TOKYO
SAITO HISASHI & KASE HITOMI INTERVIEW

斎藤久志監督&脚本家加瀬仁美『草の響き』インタヴュー

6. 映画はひとりの才能の力で出来ている訳じゃなく、スタッフの叡智の集合体でもある。
 人と人が出会ってどう化学変化が起きるかなんです(斎藤久志)

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OIT:斎藤監督は、撮影は石井(勲)さんと長年やっていらっしゃいますが、石井さん以外のスタッフは今回どう決められたんですか?
斎藤久志:照明の大坂章夫さんは石井さんと二人セットなので(笑)『なにもこわいことはない』以降は一緒にやっています。他のスタッフは鈴木の人間関係ですね。今回、僕と撮影、照明、美術、録音が全員同い歳なんですよ。全員60オーバー。鈴木もちょっと下ですけどほぼ同い歳。これだけのベテランをこの予算で集められたのは凄いことですよ。規模から言ったら美術監督なんて入れられない。そういう人たちがこの映画に面白がって参加してくれた。ありがたかったですね。映画ってひとりの才能の力で出来ている訳じゃなく、スタッフの叡智の集合体でもある。人と人が出会ってどう化学変化が起きるかなんですよ。例えば僕は自分の映画で5.1chやるのが初めてなんですよ。予算問題もありましたけど、日本映画の普通のドラマで、サラウンドって邪魔だなと思っていたんですけど、『草の響き』は5.1chを最初から意識しています。録音が矢野正人さんだったからってこともありますけど、空間を作りたかった。それと今回音響効果をやってくれた伊藤瑞樹さんがまたアーティストで、出してくるアイデアが面白かった。リアリティからちょっと外れる意味を与える音とかっていうのも使っているんです。
OIT:それはじゃあ劇場で観ないといけませんね。
斎藤久志:そうですね、劇場で観ていただかないと5.1chの印象っていうのは分からないですね。5.1chの音って配信とかDVDとかで観ちゃうと、どうしても潰れて消えちゃうんですよ。音の広がり方とか印象は是非映画館で観ていただきたいですね。観ると言うよりは「映画を浴びる」体感をしてもらえるとまた違った見え方すると思います。
OIT:あとお聞きしたいのがあの病院、和雄が入院した病室から海が見えてて、あれが結構薄気味悪い。原作でも自然がエコロジーとかの自然じゃなくて、不気味なんですよね、雀の内臓が出てるとか、不穏なものとして自然が周囲にあるという感覚が、原作小説にはあったと思うんですけど、その感覚がこの映画の中にもあるのかなと思ったんですけど、それは意識されたのでしょうか?
斎藤久志:あんまりそういうことは意識してないですけど、函館に行って凄く感じたのは天気によって海の印象がまるっきり違うっていうことです。晴れると海が凄く近い。どこに行っても海が近くにあるので、窓を開けると海っていう家が結構ある。それが晴れていると凄く希望に満ち溢れるんですけど、ちょっと天気が悪いと死にたくなるんですよ、海見てると。そういう極端な差が海にあって、それはずっと変わらずにそこにある、佐藤泰志もこれを見ていたんだなと思いました。あと、どこに行っても臥牛山(がぎゅうざん)と呼ばれる函館山が人々の営みを見下ろしている。
加瀬仁美:函館は高校の修学旅行で行って以来だったので、やはりシナリオを書く時に一度も行けなかったのは相当痛かったですね。本当はこう言う話だから、絶対に行きたかったんですけど、行けなくて本当に残念でした。
斎藤久志:函館に行かずに函館の話を書くって大変だったと思います。僕も脚本家としてガイドブックと地図だけで地方の話を書いた事がありますから、ちょっとわかります。おまけに妊娠中でしたから。これから先行公開で家族揃って函館に行くんです。僕としては妻に函館を見せたかった。
加瀬仁美:シナリオハンティングで行けなかったロケ地巡りと、函館のイカ刺しを食べて来たいと思います。映画と一緒に生まれた子どもを連れて。
OIT:やっぱりいいなぁと思う映画はお話を聞くと、その理由みたいなのがいっぱい見えてきますね。今日はお話を伺えて良かったです。ご家族お揃いで、ありがとうございました。

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