タル・ベーラ 伝説前夜
『ファミリー・ネスト』『アウトサイダー』『ダムネーション/天罰』公開記念インタヴュー
2022年1月20日
ZOOM合同取材
2011年に公開された『ニーチェの馬』を最後に、映画監督業を引退して後進の指導に力を注ぎたいと自らの口で述べたタル・ベーラ監督がまさしく有言実行の人であることは、タル・ベーラに学んだ小田香監督(『鉱 ARAGANE』2015、『セノーテ』2019)や、残念ながら早逝してしまったフー・ボー監督(『象は静かに座っている』2018)の活躍、そして幾つものプロデュース作品を見れば明らかだ。そのタル・ベーラ監督の、今まで日本では劇場未公開だった初期3作品『ファミリー・ネスト』(1977)、『アウトサイダー』(1981)、『ダムネーション/天罰』(1988)が、「タル・ベーラ 伝説前夜」として一挙劇場公開される。
監督の長編デヴュー映画『ファミリー・ネスト』は、ジョン・カサヴェテスの作品(とりわけ『フェイシズ』(1968)を想起させる)かと見紛うようなクローズアップ・ショットで捉えた熾烈な家族の人間ドラマがリアルに描写されていき、当時共産主義国家だったハンガリーの首都ブダペストで暮らすことの悲惨な社会状況が見るものに容赦無く伝わってくる。長編映画第2作『アウトサイダー』では、監督が当時実際に出会った、ボヘミアン的な都会暮らしを営むミュージシャンたちの姿を、今回の監督自身から出てきた言葉を借りれば、いわゆる一般的なドラマとは違う”浮遊感のある小説的なフォーム”で描いた実験性のある作品だが、この作品においても人間のリアルな感情が機動性のあるカメラワークを通じてヴィヴィットに捕らえられており、当時のブダペストの若者が感じていたであろう、共産主義下の官僚的国家体制によって生じた閉塞感がダイレクトに伝わってくる。『ファミリー・ネスト』と『アウトサイダー』を見ることで明らかになるのは、『サタンタンゴ』(1994)以降、圧倒的な独自の世界観・美意識が溢れだす傑作群の萌芽となる社会への絶望、怒りが、これらの初期作品に濃厚に漲っているということだ。
小説家・脚本家クラスナホルカイ・ラースローと出会い、音楽をヴィーグ・ミハーイが手掛けるようになった『ダムネーション/天罰』が、タル・ベーラ・スタイル完成の端緒となり、その後の傑作群と直接的な繋がりを感じさせる作品であることは、既にある程度知られている事実だが、今回のインタヴューで監督自らの口から、『ダムネーション/天罰』の映画フォルム、すなわち、タル・ベーラ・スタイルの誕生のきっかけが、1984年の日本滞在時に訪れた美術館での体験にあったという話を伺うことが出来たのは大変幸甚なことだった。”悪人が人々を襲い、家を奪うだろう”という旧約聖書の一節そのものの映画化であるような『ダムネーション/天罰』は、今現在、急速に没落し続けている日本という国で生活している者にとっても決して他人事とは思えない、悪夢的リアリティに満ちた映画である。是非、劇場で目を見開いて作品をご覧になり、監督の言葉に耳を傾けてみてほしい。
1. 『ファミリー・ネスト』を撮ったのは22歳の頃だった。 |
1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
『ファミリー・ネスト』
Q:今回『ファミリー・ネスト』『アウトサイダー』『ダムネーション/天罰』という3本の作品が初めて日本で劇場公開されますが、長編デヴュー作である『ファミリー・ネスト』からもう45年も経っています。ご自身が45年程前に撮られた作品が初めて日本で観られるということに対してどう思われますか?
タル・ベーラ:『ファミリー・ネスト』は22歳の時に作った作品で、当時はただ怒りに満ちていた。社会全体を憎んでいたし、人々が置かれている最悪な状況というのを憎んでいた。映画作りについてはほとんど何も知らなかったけれど、ただ皆さんをブン殴るような、そんな作品を作りたいと思っていた。そして、“本当の生活”がどんなものであるかをみんなに見せたいと思っていた。映画が大好きだったから、人に響くような、人々の今の生活の現状がどんなものなのかを見せられるものを作りたかった。ただそれだけを目指して、シンプルな想いで作ったのが『ファミリー・ネスト』だ。私はその頃22歳だったから、自分に対しての何の制限も無かったし、お金も無かった。何も無かったけれど、みんなで作った、そういう作品です。
『ファミリー・ネスト』
|
1月29日(土)よりシアター・イメージフォーラム他にて3作品一挙公開 『ファミリー・ネスト』 英題:Family Nest 監督・脚本:タル・ベーラ 1977年/ハンガリー/105分/モノクロ/1:1.37 『アウトサイダー』 英題:The Outsider 監督・脚本:タル・ベーラ 編集:フラニツキー・アーグネシュ 1981年/ハンガリー/128分/カラー/1:1.37 『ダムネーション/天罰』 英題:Damnation 監督・脚本:タル・ベーラ 脚本:クラスナホルカイ・ラースロー 撮影監督:メドヴィジ・ガーボル 編集:フラニツキー・アーグネシュ 1988年/ハンガリー/121分/モノクロ/1:1.66 4Kデジタル・レストア版 配給:ビターズ・エンド タル・ベーラ 伝説前夜 オフィシャルサイト https://www.bitters.co.jp/tarrbela/ 『ヴェルクマイスター・ハーモニー』レヴュー 『倫敦から来た男』レヴュー 『倫敦から来た男』トークショー 『ニーチェの馬』記者会見:全文掲載 『ニーチェの馬』Q&A:全文掲載 『ニーチェの馬』インタヴュー |
1 | 2 | 3 | 4 | 5 次ページ→ |