OUTSIDE IN TOKYO
GABE KLINGER INTERVIEW

ゲイブ・クリンガー『ポルト』インタヴュー

3. 監督は映画が自分に語りかける状態に耳を傾けなければいけない。
 必要とするものは必ず映画が教えてくれる。

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OIT:ジェイクがしゃべる時の間合いもゆっくりとし、動き出すタイミングもどこかノスタルジアを醸し出していますね。現代の人がそこまでゆっくり時間をかけないくらいに。
GK:そうだね。彼は明らかにモダンなペースでは動いていない。それについてはよく話し合ったんだ。

OIT:でもマティはもっと動きが早い気がします。
GK:そうだね。彼女も考古学のキャリアを築こうとしていて、その後も、子供ができ、家族の面倒を見ようとして、彼女の母親が与えた人生よりも保守的な生活を望んでいる。彼よりも安定し、それでも彼女なりに冒険できる瞬間を望んでいる。2つの欲求の間に挟まれているようだ。

OIT:つまり、ジェイクはよりノスタルジックな時間軸を生きていて、マティはより現代的な時間を生きている気がしますが、それは意図したものですか?違う時間軸を共存させるような構成にしているのでしょうか?
GK:必ずしもそう意図したわけではないけど、確かに言われればそうなのかも。特にジェイクはウールのチェックのジャケットを着て、ジェームス・ディーンのような、ビートニックっぽいというか。マティは若くてエレガントな大学生で、パリジェンヌだ。でも彼女も古い車に乗り、アパートに古いものがたくさんある。ボヘミアンで、床にマットレスを直接敷き、マティも過去に片足をおいている。もちろんボヘミアンなライフスタイルも、娘が生まれると変わるんだけど。

OIT:二人の距離感の写し方は?
GK:二人を隔てるテーブルの距離が基準だ。二人が座わる位置関係のまま。今回は特に時間に余裕がなかったし、希望通りに変えることは予算的に許されなかった。テーブルを切るわけにもいかないから(笑)。だから空間の制限を受け入れて仕事するしかない。逆にたくさん操作するよりも、そっちの方が好きだ。操作したければスタジオで作業した方がいい。大道具がいて求めるままに作ってもらえる。でも実生活のリアルなテクスチャーから離れてしまうのも嫌なんだ。リアルなものや空間からたくさんのことが与えられる。それに人口的なものが多くなれば観客も気づいてしまう。だから空間的なズレは気にしなくていいんだ。シンメトリーでもなく、ぴったりこなくてもやるしかない。おかげで映画にはモダンでユニークな質感が加わっている。プロダクションや左右対称や人口的な表層などはエネルギーを吸い取ってしまう。例えばウェス・アンダーソンのような。全てが完璧で綺麗に磨かれている。そうなると時には退屈になることもある。ごめんな、ウェス!

OIT:個人的に知り合いですか?
GK:いいや(笑)。

OIT:映画全体の絡まり合うような構成は、最初から意図したことですか?
GK:うん、構造は頭の中に全てあって、自分たちが大切だと信じるアイデアを入れていこうと思っていた。だから編集の段階になってから、そういうアイデアを転がしていくんだ。こっちに入れてみようか、あっちに入れて見ようかって。でも元々のコンセプトと合わない時もある。だから編集では全く異質なものを加えるというより、すでに脚本にある、絶対に必要なもので構成を作ってから、それを強く裏付けてくれるものだけを入れるようにした。それが大きなチャレンジだ。プロデューサーが口を挟んだり、他の誰かが入ったり、もっと商業的にも通用する映画にしようとする時などの問題はそこにある。違う映画のトーンになってしまうからうまくいかない。だからそこには抵抗するしかないね。監督は映画が自分に語りかける状態に耳を傾けなければいけない。必要とするものは必ず映画が教えてくれる。編集室にいて、映画が生き物として呼吸していくのを見るのはコミュニケーションとしてとても楽しい。これならいいけど、そっちはダメだとか。その関係はフィルムと編集者との間にしか存在しない。何ヶ月も編集室にこもって過ごして、頭の中にこもるというか、ちょっと“飛んじゃう”ような体験だけど。人生のどんなことでも、集中していれば皆一様に起きるようなことさ。他の人に見えないようなことが自分だけ見えるようになる。


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