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7. 今は先を読めない時代だ。 |
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OIT:一歩下がって、自分の映画を改めて見て、シネフィルとして育ってきた一人としてどんな影響が垣間見られるか教えてもらえますか?
GK:もちろん!映画の言語にどんなことが可能かを教えてくれた映画がある。全てのことに影響を与えてきた映画が。それはシェイクスピアがあらゆるものに影響を与えてきたようなものだ。つまり、ヒッチコックの『めまい』(58)は、時間についての映画だった。渦があり、それが傘となり、時間とか、丸いものへの隠喩がある。誰もが映画を理解する上で少なからず恩恵を受けている。時間の描き方や記憶について。何かを欲する時に脳が騙される感じとか。とても多層で時代を超えた傑作映画で、誰もその功績を否定する人はいないはず。その映画なくして『マルホランド・ドライブ』(01)もなかった。それとカサヴェテスの名前は出たね。多くの人が名前を出すけど、彼がハリウッドで映画を撮り始めた時、そういう映画を作る人はまだいなくて、彼はそれを貫き続けた。自分のやり方で、資金も自己調達し、自分だけのルールで作っていく。それはとても稀なことで、彼が前例を作り、後人のためになった。カサヴェテスの映画がどれだけ素晴らしいと讃えても、それでも彼の映画が何を意味するのか考えてしまう。彼の特質を的確に把握するのは難しい。即興やノイズのあるサウンドトラックだけじゃないと思う。ジャック・リヴェットも 映画の長さという意味でも大きく貢献した。例えば『セリーヌとジュリーは舟でゆく』(71)も『アウト・ワン』(71)も。時間について考えたり、構造の記憶について考えさせられる。アラン・レネの映画は、時間軸が爆発し、断片化された時間を描く。クリス・マルケルも。みんな大胆なことをしている。アート系映画は今では商業映画に取り込まれてしまった感があり(ハーヴェイ・ワインスティーンのおかげでね)、そこにあった危険な匂いやおもしろさは失われてしまった。今作られているアート系映画は60、70年代の映画ほどに境界を破壊する存在ではない。俳優の演技の質としても魅力的な、新しいハリウッド映画にも興味はある。30年代のハリウッド映画にも影響を受けた。音響の実験という点でもあの時代の映画は際立っている。1929から1939年には素晴らしい、規制前夜の時代があった。カトリックの道徳的な規制(ヘイズ・コード)が入る前はワイルドでクレイジーな時代もあって、ハリウッドは不況の時代に大勢の人に仕事を与えた。産業として盛り上がり、人々はグループを組み、映画を作り、みんなの生活を支えていた。どこか祝祭的だった。僕は日本の50年代のスタジオ映画のファンなんだ。小津安二郎、溝口健二、60年代のアートシアターギルドとか、今村昌平とか大島渚も。若い頃は今村のファンだったけど、今は大島のことを考える。彼のキャリアを考えてみるとすごいね、今だったら誰にあんなことができるだろう。あらゆる種類の、クレイジーな映画を撮っている。それを高いレベルで作り、成功し、政治的な境界にも挑んできた。もう二度と大島のような人は生まれないだろう。60年代は様々なことが爆発的に起き、なんでも可能だという感覚で、小津の助手だった今村がスタジオのシステムに背を向けた。そうして父殺しのように伝統を切り捨て始めた時代がある。カサヴェテスも同じようなことをした。ヌーヴェルヴァーグの連中も同じことだ。シネマの父親を殺したんだ。そして殺した後、素晴らしい映画がたくさん生まれ、その後にブロックバスター映画の時代が到来した。全てがクソみたいなスーパーヒーローの映画になってしまう(笑)。一体、どうしたんだ?何か革命が必要なのかもしれない。優秀な人たちはテレビに流れている。今は先を読めない時代だ。僕の映画のような小さな映画もできていて、奇跡が起こせるのか起こせないのか、まだ分からない。それでなんらかの地平が開けるといいんだけど。
OIT:これは褒め言葉だけど、どこか学生映画のようで、いろんなやりたいことがぎゅっと詰め込まれている気がしました。それでベテランが小さい映画に立ち返る例も多いけど、そんなベテランが若かりし頃の学生映画に戻れると思いますか?
GK:君と同じ見方をすることはできないけど、学生映画の視点というのはずっと失わないでいたいと思うよ。若気の至り、みたいなところもあるかもしれないし、映画史を取り入れようとし過ぎな部分もあるかもしれない。でもそれは愛に基づいているつもりだ。最終的にうまく行けばいいと思う。
OIT:でもベテランの監督が映画作りの初期衝動に戻ることはできると思いますか?コッポラの『テトロ 過去を殺した男』(09)のような映画もありました。
GK:ヴィンセント・ギャロが出ていたね。
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