OUTSIDE IN TOKYO
GABE KLINGER INTERVIEW

ゲイブ・クリンガー『ポルト』インタヴュー

8. 魔法のように、孤独や郷愁が表面化する場所で撮りたかった。
 ポルトにはそれがあった。

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OIT:衝動はすばらしいけれど、どうしても戻ってこないこともある気がして。
GK:まあね。コッポラは小さな映画を撮りたいと思うようになったが、ジョージ・ルーカスがそこに戻ることはなかった。『リンカーン』(12)はスピルバーグにとっては低予算だったかもしれないけど、実際は巨大な映画だ。スコセッシの『沈黙 –サイレンス-』(16)も、彼の規模からすれば低予算かもしれない。それでも比較的大きいよね。もう一つの例はブライアン・デ・パルマかな。彼は小さな映画『リダクテッド 真実の価値』(08)を撮り、実験的で初期のような小さな映画に戻った。成功したとは言えないけど、その姿勢は買うよ。たまにシステムの中にいた監督がそこから出て小さな映画を作ろうとすることはあるね。ハリウッドのカルチャーから、どんどん大きくしなければと迫られているから。スコセッシが『グッドフェローズ』(90)を作っている時、スピルバーグがセットを訪ねて来たらしいんだ。「マーティ、予算はいくらだい?」「3000万ドルだよ」って。それでスピルバーグが、「なんだ、まだ低予算映画を作っているのか」と言ったとか。その後、スコセッシの映画の予算はどんどん大きくなっていき、『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(13)まで行く。『アビエーター』(04)と『ギャング・オブ・ニューヨーク』(02)は、彼の初めての10億ドル規模の映画だった。製作費は、どんどん高くなっていき、新作の『The Irishman』なんて20億ドル規模だ、ギャングスター映画でね。『ミーン・ストリート』(73)なんてすごい低予算で『ポルト』規模だったのに(笑)

OIT:それが傑作だから。
GK:そう!フィルムノワールで『恐怖のまわり道(原題:Detour)』(45/エドガー・G・ウルマー)という40年代の素晴らしい映画があるんだけど、Z級の最貧映画で、“ポヴァティー・ロウ(Poverty Row)”スタジオ映画と呼ばれている。他に行くところもないから“行き止まり”ってタイトルになったって学校の先生が言っていたのを覚えている。

OIT:現代のフランス映画はどう思いますか?アサイヤスとか。
GK:うーん、好きだよ。彼は友達だし、同じ製作会社で仕事もしていた。ポストプロダクションの会社も同じで、『ポルト』の最後の仕上げをしている時、彼も『パーソナル・ショッパー』(16)の作業をしていた。彼のやっていることはとても面白い。彼のはジャンル映画だけど、その中で面白い作品を作る。今日の生活を奇妙な描き方で作り、独自のやり方で撮る。フランスにいる特権というか、特別な場所で作ることができている。ハリウッドだったらもっと大変だと思うよ。

OIT:そもそもアメリカの外でこの映画を取ろうと思った理由は?求めていたのはノスタルジアですか?
GK:多くの物語が旧世界で作られているよね。それに都市の設定だから。馬車のために作られた街だからより人の距離が近い気がする。街の中心があって、結局人は同じ場所に惹きつけられるように集まってくる。それが現代の都市にない部分でもある。ただ映像的に感銘を受ける場所であると同時に、魔法のように、孤独や郷愁が表面化する場所で撮りたかった。ポルトにはそれがあった。常にそうした感情が語りかけてくる場所なんだ。でも次の映画はシカゴで撮る。フィクション、それとドキュメンタリーを。ドキュメンタリーの方は若いニューヨークの60年代の映画ムーブメントについて。それとシカゴを舞台に、60年代の市民権運動の若者たちの映画を作りたい。

OIT:大きな予算になりそうですね?
GK:そうならないといいけど(笑)。シンプルになるよ。シカゴのいいところはいい建築物を撮影しようと思えば残っていること。カメラを置けば60年代と変わらない感じで撮影できる。無理に作らなくても。車は昔のものを借りる必要があるけど、時代ものと言うと予算が高いと思いがちだけど、クリエイティブであれば可能なこともある。それに音楽が好きだから、ミュージシャンたちと、脚本の段階から作っていきたいと思っている。映画でコラボレートするミュージシャンたちにアプローチしているところだ。作曲してもらって。

OIT:ミュージカルではないよね?
GK:もちろん!ギリシャ(悲劇)の合唱のように物語に合わせて音楽が展開する感じで、『ラ・ラ・ランド』(16)とは全然違う感じの映画になると思うよ(笑)。

OIT:最後に、今年見た中で一番の映画は?
GK:今年、カンヌ映画祭に行ったんだけど、友達でもあるジョシュア&ベニー・サフディ兄弟の『グッド・タイム』(17)と、ショーン・ベイカーの『The Florida Project』(17)が良かったね。

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