OUTSIDE IN TOKYO
MIYAZAKI DAISUKE INTERVIEW

宮崎大祐『TOURISM』インタヴュー

5. 80年代的価値観が30〜40年経ってる今も更新されてないような気がして、
 あくまで我々の方が文化的に先を行き、経済的にも上っていう
 大きな勘違いを是正したいなと思っていました

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OIT:そういうのは現場で考えたんですか?
宮崎大祐:それも僕のノートには書いてあって、やっぱり自分も感覚的には分かるんで、これは面白くないとか、危険だなとか、スベってるなとか、お客さんがここまで楽しんでても、これやっちゃうとどっちらけになっちゃうかなみたいなのは感覚的に分かってたんで、やってみていけると思えばそのままやって頂くみたいな感じでした。結果的には、そうやった方が味というかスパイスにはなってるかなと。ダンスも結局そうでして、皆さんから凄く反対されたんです、役者含めて。でも、やるって言ったらやるんだって言って、やった結果、代表的なシーンになったとは思うんですけど。
OIT:そうですね、昔の日本人の人達だと海外に行ってブランド物を買うっていう流れですけど、今は一応ブランドは見るんだけどお金無いから買えないし、じゃあ踊るかみたいな、そういう流れになってましたよね。
宮崎大祐:そうなんですよ。だからなんかその辺もブランド物を買うのか、いや買っちゃダメみたいなことじゃなくて、買うことは出来ないけどこんな現実もあってその上で如何に踊るか、楽しく生きるか、そういう作品全体のテーマを表象できるシーンになったのかなと思ってます。
OIT:“ツーリズム”っていうと日本人的には80年代のバブルのお金があった時代に、村上龍がシンガポールを舞台に「ラッフルズホテル」っていう小説書いて映画まで自分で撮ったという、そういう時代が遥か彼方にあったわけですが、それを更新したという感じがありますね。
宮崎大祐:そうですね、やはりここ数年自分が東南アジアに行って思うのが、かなりもう飛躍的に関係性は変わっていて、アジアの国々と日本の、我々はお金があって何かを買うとか、政府系のお金を渡すとか云々という関係よりも、かなり対等な関係性というか、むしろシンガポールの場合、向こうの方がお金があるような状態になっている、でもそういう状態をあまり今の映画とか芸術って見せられてないような気がするんですよ。その80年代的価値観は30〜40年経ってる今も更新されてないような気がして、あくまで我々の方が文化的に先を行き、経済的にも上っていう大きな勘違いを是正したいなと思っていました。だから日本がダメだとか言うつもりは全くなくて、現実としてこうなっていて、その上でどう踊るか、どう楽しめるか、彼らとどう対等に一緒に生きていけるかみたいなことを考えたい。村上龍的な80年代も僕は好きなんですけど、今回は日本の郊外に住んでいるそんなに豊かではない子たちを主人公にした、今の若い子たちは結構生活的、経済的には厳しいと思うので。ドーンってお金持ちの中国人がひたすらブランド品を買いに来るようなお店に来た時にどういう反応を示すかとか、あるいはもちろん基本的な経済力でいったらまだまだ日本の方が上かもしれないですけど、アジアのちょっと貧しい方々と一緒になった場合に彼女達がどういう反応を示すかといったことが見たかったですね。
OIT:日本映画を見ていて辛いのが、今仰っていたことが感覚的に更新できてないっていうところが凄く大きいと思っていて、経済的なことも含めての価値観ですね。だけどこの作品はアジアの中で、日本人に見せるというよりは、世界に見せるという感覚があるのかなと思ったんですけど、その辺はどうですか?
宮崎大祐:その辺はかなり意識的にやってまして、やっぱり海外、特に西洋の方々の日本に対する眼差しって、やはり同じく80年代から更新されてないところがあって、金持ちで眼鏡をかけてて、ひたすらバリバリ仕事をしてて、とても綺麗な国みたいな。それは正直、東京の中心には当てはまるのかもしれないですけど、少なくとも僕が住んでる東京から電車で1時間離れた神奈川の大和町では当てはまらないっていうのが僕の実感です。この平成30年の間に劇的に経済状況は悪化しましたし、じゃあヨーロッパの国々と比べて物価がどうか、生活がどうかっていうと、どう考えても我々の方が豊かということはなくて、むしろ貧しいという状況が生まれている、そこの更新を世界の方にリアルタイムで見せていきたいっていうのはありました。『大和(カリフォルニア)』もそうでしたけど『TOURISM』は特にそうなのかもという気がしていて、逆に東南アジアの方々からみると、ウソー!みたいな話になるんですけど、でもそれが僕の実感している現実ではあります。
OIT:経済成長してないのアジアで日本だけですからね、それが現実なんですけど、日本人の多くがそれを認めないのか知らないのか、それが非常に問題ですよね。だからこの認識からスタートしないと何も始まらない。
宮崎大祐:本当にその通りで、30年前のものがまだあって、それを守っていこうという雰囲気になってますけど、いや30年間磨耗してきて、そこから何をするか考えないと本当にまずいよっていう状況ではあると思います。美しくゆっくり死んでいく美学みたいもには凄く抵抗があって、現実はこうだし、世界の一部として取り込まれて、どうしていくかっていうのを考えなきゃいけないっていうのが、多分、僕の作品の全てに通底したテーマになってるかもしれないですね。
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