OUTSIDE IN TOKYO
MIYAZAKI DAISUKE INTERVIEW

宮崎大祐『TOURISM』インタヴュー

6. 僕のバックボーンは学生時代から政治的興味にあったりするんです

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OIT:今丁度、70年代、80年代の日本のシティポップが、「Pacific Breeze」っていうタイトルのコンピレーションで出てるじゃないですか。
宮崎大祐:あ、出ましたね。
OIT:面白いと思ったのが、結構日本の経済が調子良かった時に、ああいうポップが生まれて、その空疎さをちゃんとライナーノーツで分析してるんですよね。それは、海外から見て“日本”を相対化してる視点なんですよね、今や日本人がむしろそういう視点を持つ必要があると思うんですけど、それが欠けていた。だけど宮崎さんの映画のように、そうした視点と同じ地平に立った作品が出てきたのはとても良いことだなと、この映画に出会えて良かったなと思っています。
宮崎大祐:ありがとうございます。
OIT:映画の内容に関して、具体的にあと幾つかお聞きしたいのですが、モニュメントが出てくるじゃないですか、あれは戦争の時に日本軍がかなり悪さをしたことの記憶を残すために建てられた「血債の塔」ですか?
宮崎大祐:そうです。軍事的な侵略として記録に残っているのは本当に短い一週間という期間ではあったんですけど、その後やっぱりレジスタンスだったり、共産主義系の方々をかなり処刑していたという事実があります。シンガポールはもの凄い親日国ですし、レストランは日本のレストランだらけで、洋服も全身日本のブランドみたいな状況ではあるんですけど、「お前らは俺たちを占領しやがったな」みたいなことをやっぱり冗談でぽろっと言ったりするので、その事実は全く隠せないにも拘らず、日本の人々はほとんどそのことを知らない。シンガポールで一時的であれ、そういう風に暴力的な諍いがあったということを知らなくて、観光地だよねとか、モールみたいでつまんない国だよねとか、そういう言い方をしたりすることにも凄く違和感があります。今これだけフラットに均一化されてるけど、その拭えない歴史だったり関係性が確実にあるみたいなことを凄く感じる場所ではあるんですけど、恐ろしいことにめちゃくちゃ廃れていて、ほぼ誰も今訪れない観光地というか名所になっているんですよ。聞いた話ですけど、シンガポールって歴史の授業が無いらしいんですよ、あくまで聞いた話ですけど。過去は今更振り返ってもしょうがないみたいな感じで、恐らくリベラル系の人が言ってたんですけど。そうではないだろうと。日本の教育がどうこうということでもなく、何か繋がって全てが起きていて、今後それをどうしていくか、過去を踏まえてっていう思想をシンガポールも日本もできる、無かったとか、あったからどうのっていうのも全部踏まえていけないかなとか思いつつ、この映画もそういう要素が含まれていないと誤解されるかもしれないと思ったり。僕のバックボーンは学生時代から政治的興味にあったりするんです。本当にあれが廃れてるのがどうも納得がいかないという感覚があります。
OIT:監督の作家性みたいなのがああいうところにふっと急に出てくる、でも登場人物のこの人達は多分そういうことを知らないという状況でそのまま彷徨っていく、だけどディープなシンガポールと出会うという流れなんですよね。
宮崎大祐:はい、まあディープと言いましても限度があるんですけど、基本的にシンガポールの映画でも色々禁止事項があって、やっぱりイスラム系の方とかインド系の方々を描くことはポジティブには捉えられない、政府から推奨はされない。ただ実際に行ってみると、もちろん華僑系の方が多いんですけど、確実にインド系、特にイスラム系の方は多いですね。マレーから来たそうした人々が多いという現状がある中で、そうした人々が映画に入ってくるのは僕の中では当然のことでした。最初に製作部の方に後半の家族のキャスティングをお願いした時は、華僑の方を勧められたんですよ。
OIT:マレー系じゃなくて。
宮崎大祐:そうです、中国系の家族が似たようなマンションに住んでますって勧められたんですけど、いやでも僕が行った限りほとんど中国系には見えなかったんだけどっていう話をしたら、「ああ、そうですか」って(笑)。あとは自分で宿をとると、リトルインディアの近くにとることが多いんですけど、食事をしたりしていると、彼らのエネルギッシュなところが見えて好きになりました。街はジェントリフィケーションされちゃっててディズニーランドみたいになっちゃってるんですけど、活気とか文化がやはりあって、面白いと思ったんです。インドとイスラムと中華文化が衝突、融合していて面白い所なんですけど、そのことはあんまり言われていないので、そこを自分の映画でやれたらいいなとは思いました。
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