OUTSIDE IN TOKYO
SUZUKI TAKUJI INTERVIEW

鈴木卓爾『嵐電』インタヴュー

6. どっちかというと賢治であり、あるいは、あがた森魚なんですよ

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OIT:嘉子と譜雨の若いカップルの良さもあるんですけど、衛星と妻斗麻子(安部聡子)のカップルも、非常にいいですよね。この二人は一体どういう夫婦なんだろうっていうのを思いながら観ていくと、最後の方でこういうことだったのかっていうのが大きなうねりの中で分かるっていう感覚が凄く良かったです。
鈴木卓爾:悩んだのは新さんと安部さん、衛星と斗麻子の間の出来事を具体的なものとして描くのか描かないのか、相当悩んだんですけど、なんかそれをやる気にはならなかったんですね。その具体的なものっていうのを思いつかなくて、むしろ本当にただ変わっちゃうっていう、台詞は出てくるんですけど。
OIT:ちょうどいい感じだと思いました。具体的なエピソードがあるよりは余韻を含めて、衛星がいつも遠くを見つめている視線の佇まいが雄弁に語っていましたので、具体的なお芝居を見るより余程効果的だったのではないでしょうか。
鈴木卓爾:回想の場面ではあっても内面的に描写していきたくはないなって、そもそも映画って不可逆ではない時間で語れるものなので。そこで何か理屈とか、掘り下げる深層心理みたいなことじゃないんですよ。映画だから出来ることなので、認識としては当たり前なんですよね。
OIT:むしろそこで狸と狐が出てきちゃって話が繋がっていっちゃうということですよね。
鈴木卓爾:そうなんです。京都だから成立したっていうのは大きいかもしれないけど。
OIT:京都じゃなくても卓爾監督の場合、兎が出てきたりしますが(『楽隊のうさぎ』(13))。
鈴木卓爾:確かにそうです。
OIT:『ジョギング渡り鳥』のモコモコ星人にしてもそうですけど。今回の狐と狸には何か由来があるのでしょうか?
鈴木卓爾:最初は狐と狸じゃなくて、妖怪電車というものをベースに二転三転していて、全く違う形状の妖怪が現れる予定だったんです、途中まで(笑)。それが予算的にちょっと難しいっていうのがあって、少しモヤモヤしてたんです、そこに凄く意味が出てきちゃうんじゃないかなという感じで。あれが出てきて、何で?って問われるケースになるだろうなみたいな感じとかがあって。宮沢賢治の童話「シグナルとシグナレス」を意識して嵐電嵯峨の駅のロンドンブックスさんっていう所が、「シグナレス」っていうフリーペーパーを出していて、西田さんがその発行号ごとに原稿を書いてるっていう話もあって、「シグナルとシグナレス」を読んだんですよね、京都と宮沢賢治って繋がらないんですけど、台本というか映画を準備していくにあたって、ある時、そこまで京都を気にしないようにしようって、どっちかというと賢治であり、あるいは、あがた森魚なんですよ。あがた森魚から稲垣足穂大先生が出てくる、そういう日本が持ってる、まだファンタジーっていう前に言える言葉、民話なのかフォークロアなのか、柳田國男とか、そこには更にもうひとつフックが必要だったんですけど。狐と狸っていうのは、渋谷で最初に新さんと打ち合わせをした時に、衛星さんってこんな本書いてる人なんじゃないかっていうので、最初見せたのが山と溪谷社から出ている「山怪」っていう山の不思議な話集で、これ読むと日本全国で狐と狸が人を化かしまくってる訳ですよ。それで、じゃあもう出てもらおうかなっていう感じになった。元々のアイデアで出させて頂こうと思っていたものは具体的には言わないでおきますけど、その案はちょっと予算的にも大変っていうのがあったりしたのでやめました。あとは、日本全体に通じるフォークロアを導入して、じゃあ漫才やってもらおうかなって。昔、昭和時代にテレビで放送された夫婦を紹介する番組があって、「おもろい夫婦」っていう、小金治さんとかがやってた番組だったかな?いつも番組始まる時に、狐と狸の化かし合いに喩えて、夫婦それはおもろいなみたいな、そんなのがあったような気がしてまして。一般的じゃないのかもしれないけど、僕の中では凄く一般的で、狐と狸が出てきたら夫婦で化かしあったり、小突きあったりするという。
OIT:夫婦の秀逸な比喩になってますね。
鈴木卓爾:上方の漫才と京都っていうのもまた違うと思うんだけど、一緒にしちゃおうと思って、怪がおきるシーンだけど怖いというよりはそれはそれで運営している、彼らには毎回運営する事情があるみたいな(笑)。


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