OUTSIDE IN TOKYO
SUZUKI TAKUJI INTERVIEW

鈴木卓爾『嵐電』インタヴュー

10. あがたさんは今でも名曲を何年かに一回は必ず出す、それが来たっていう、
  しかも自分の『嵐電』で来てくれたっていうのが良かったなって

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OIT:ギターの響きが良かったですね。
鈴木卓爾:ギターっていうと「島がある星がある」とかの?
OIT:それとは別に、ギター単体で流れてる場面がありましたね。
鈴木卓爾:いいギターですよね。あれを映画館で聴くと凄くこうラウドネスっていうか、嵐電のブレーキ音とかが凄くスライドギターとかとマッチしてくるので。元々僕の中に電車っていうイメージは、『旅の重さ』(72)っていう映画の冒頭で、遠くから電車が200ミリぐらいのレンズの向こうから線路から映ってゆらゆらと蜃気楼が揺れてる中、電車が入ってきて、ここに吉田拓郎のギターが入って、「私は今日まで生きてきました」って続くという記憶があるんです。それを昔シティロードで読んで、『旅の重さ』も観てるんだけど、そうだったけなぁと思いながら『旅の重さ』を観てもそうじゃなかったような気がする、それでは一体私が観たのは何だったのか?って思っていたりする。似たようなことが、侯孝賢の『恋々風塵』(86)でもあって、トンネルから抜けて電車が走っていって学生二人が電車の中で帰り道、自分達の街に着いて降りて歩いてくるとスクリーンが広場に貼ってあって、それを見た男の子の方がああ映画だって言う、その時にかかるギターの音が良くて、それも蓮實重彦さんが書いていたので僕の中の『恋々風塵』って、僕の脳の中ではそういう風に記憶されてしまうんですけどね。ピアノよりギターっていう感じ、僕なりにも京都って旅人目線なので、これはやっぱり西田さんのような京都にいる人から見たらそうではないのかもしれなくて、ピアノかもしれないんですけど、分かんないですけど。
西田:ピアノじゃないです。映画音楽はなるべくピアノを避ける。
鈴木卓爾:なんでですか、それは?
西田:これを言ったらつまんない話ですけど、駄目なんですって、日本映画の音楽は。
OIT:分かる気がします、クラシックのピアノをよく入れちゃうんですよね。割とメジャーな邦画とかで多いですよね。その感覚は分かります。
西田:よっぽどピアノで聴かせどころとかが発生したりする場合は別なんでしょうけど、なるべく避けたいと思ってます。
OIT:なんか“軽井沢”みたいな感じになりません(笑)?
鈴木卓爾:分かります、凄いフィクション性が高すぎるというか(笑)。
OIT:ところで、あがたさんとは元々面識があったのですか?
鈴木卓爾:僕はもう『裸足のピクニック』(93)の頃からのお知り合いで、矢口監督が連れてきて映画に出てもらって、それから長い付き合いになります。あがた森魚さんは本当に大学時代からのファンだったりするんですよ。しつこく聴いている人だったんで、本物と仕事するって凄いことでしたね、怖いことっていうか。それから何十年か経って、飽きずにあがたさんを追いかけ続けていて、きっかけは西田さんが函館映画祭であがたさんとの関わりもあるし、音楽どうしましょうっていう話になった時に、あがた森魚を推薦されたんですよ。
西田:ちょっと違いますけどね。
鈴木卓爾:あ、違いましたっけ?あがたさんはどうですか?って西田さんが言うから、あがたさんに聞いてくださいって言った。そうしたら、やらないことはないということで、それでお願いしたんです。僕からっていうよりは。でも帷子ノ辻っていうのはもうあったのと、製作途中からもうあがたさんでっていうのは決まっていたので、かなり僕も意識し始めて、それこそ「カタビラ辻に異星人を待つ」っていう曲をもう一回リアレンジして作ってもらえないかって相談して、実際そうして頂いたんです。映画の中でかかってる曲って実は「カタビラ辻に異星人を待つ」なんです。分解するとそうなってるんです、よく聴くと。これが色々変奏されていって今回の曲になっていってるんですよね。「島がある星がある」って謎の新曲がバンときて、最初はそのギターのみのメインタイトル曲で、ライ・クーダーみたいな感じだったんですけど、『パリ、テキサス』か?みたいな、ブルース系ではないなとは思ったんだけど、やがて「島がある星がある」が三拍子で変化されて上がってきた時に、やっぱりびっくりしましたね。あがたさんは今でも名曲を何年かに一回は必ず出す、それが来たっていう、しかも自分の『嵐電』で来てくれたっていうのが良かったなって。


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