OUTSIDE IN TOKYO ENGLISH
2012 BEST 10 FILMS

2013.1.16 update
小倉聖子(VALERIA/映画宣伝パブリシスト)

鍛冶紀子(OUTSIDE IN TOKYO)

浅井学(OUTSIDE IN TOKYO)

上原輝樹(OUTSIDE IN TOKYO)

日本公開新作映画ベスト10
小倉聖子
1.『スプリング・ブレイカーズ』ハーモニー・コリン
最高のガールズ青春映画の誕生。まさか、まさかのブリトニー・スピアーズ“Everytime”をピアノで弾くジェームス・ブランコ+ピンク覆面ビキニ女子3人が海辺で踊るシーンがこれほどまでに美しいとは!度肝を抜かれた。アメリカ映画の新しい一歩を感じる作品。もっともっとこういう映画が出てきてほしい。
2.『サニー 永遠の仲間たち』カン・ヒョンチョル
韓国映画はやっぱりすごいんだと久しぶりに確信した。最初の10分くらいでこの映画のエンディングを察知するも、途中のエピソードなど、想像もしない展開に唖然。本編を通して流れる楽曲全てがその時代の曲で、プロデューサーや製作会社の本気度も感じた。こういう映画は日本でも作れるはず!
3.『Ill Manors』ベン・ドリュー
2012年カンヌ国際映画祭で観た中でベスト。イギリスのラッパーPLAN Bが監督ということもあって普通の青春映画ではない。登場するギャングたち一人一人を紹介するシーン、生い立ちをラップで紹介していくところで、こんな映画は今まで見たことがない!という衝撃を受けた。
4.『ソウル・サーファー』ショーン・マクナマラ
ベサニー・ハミルトンという実在の人物に負けない、リアルさを醸し出したアナソフィア・ロブの演技力に感動。片腕をなくした少女のサーフィンシーンには何度も涙を流した。両親役のデニス・クエイドとヘレン・ハントもとても良かった。
5.『裏切りのサーカス』トーマス・アルフレッドソン
とにかく全編通して、衣装、セットのセンスの良さを堪能。トム・ハーディとゲーリー・オールドマンの絡みのシーンには本物の“映画”を観ている感触を覚えた。小難しいスパイの話をわかりやすく映画的に仕上げたトーマス・アルフレッドソンの力量に脱帽。
6.『アルゴ』ベン・アフレック
ベン・アフレック同様、監督・出演といえば『ローマ法王の休日』のナンニ・モレッティ監督が頭に浮かぶんだけど、彼と違って、ベンは監督に徹した!と言い切って良いと思えるほどの傑作。実際に起きたこの事件すら知らなかっただけに、映画が終わるまで手に汗を握った、こんな体験は久しぶり。脇役の役者から脚本まで、本当に素晴らしい。今後もベンに期待!
7.『フィッシュ・タンク』アンドレア・アーノルド
この映画のテーマソングでもあるボビー・ウーマックの“California Dreamin”に合わせて少女がHIP HOPダンスするシーンが未だに頭から離れない。イギリスの地方都市の現状を少女の体験を通して描いた1作。マイケル・ファスベンダーのダメ男っぷりも最高。
8.『わたしたちの宣戦布告』ヴァレリ・ドンゼッリ
今、フランスで間違いなくキテいる女性監督、ヴァレリー・ドンゼッリの傑作!実際にカップルであったジェレミーと一緒に脚本を書いているだけあってすべてが淀みなく進む展開の速さ。子供の難病に立ち向かう若い夫婦の葛藤を、重くならずに、それでもリアルに描いている所に感動する。
9.『ベルフラワー』エヴァン・グローデル
ただのアメリカのインディー映画ではない、とんでもない男のラブストーリーだった。ビジュアルのイメージからただのアクション映画かと思っていたが、中身は究極の愛についての物語。あまりにもビジュアルと内容のギャップがあったせいか、まだひきづってる。
10.『ホビット 思いがけない冒険』ピーター・ジャクソン
ずっとこの映画を見ていたいと思っていた。ドワーフ一派とビルボ・バギンスが山道を歩く空撮のシーンは圧巻。本当にこの山にはこういう人たちがいるのではないかという錯覚を覚えた。セリフも心に響く。終わらないで~、終わらないで~!と思いながら見ていた170分間。

小倉聖子
映画宣伝パブリシスト。2012年は「果てなき路」、「フランス未公開傑作選」、「カルロス」、「ホセ・ルイス・ゲリン映画祭」、「カリフォルニア・ドールズ」、「ポーランド映画祭2012」、爆音映画祭などの宣伝を担当。

日本公開新作映画ベスト10
鍛冶紀子
1.『ニーチェの馬』タル・ベーラ
2.『ミッドナイト・イン・パリ』ウディ・アレン
3.『ライク・サムワン・イン・ラブ』アッバス・キアロスタミ
4.『pina ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』ヴィム・ヴェンダース
5.『次の朝は他人』ホン・サンス
6.『桐島、部活やめるってよ』吉田大八
7.『おとなのけんか』ロマン・ポランスキー
8.『三重スパイ』エリック・ロメール
9.『刑事ベラミー』クロード・シャブロル
10.『メランコリア』ラース・フォン・トリアー

2012年は猛省するほどに映画から離れてしまった一年だった。そんな中、最も印象深く、その後も思考回路に残り続けたのが「ニーチェの馬」。徐々に滅び行くその様は、311以降を生きる私たちにとって迫るものがあった。同じ“滅び”を描いた「メランコリア」はその対局にあり、もはやハッピーエンドといえる、ある種の楽観性があった。

「ニーチェの馬」同様、強く思考回路に残り続けた作品として「ミッドナイト・イン・パリ」がある。古道具屋を営む身としては「ひとつ前の時代はいつだって黄金時代」という言葉を、共感と戒めを持って受け止めた。過去への憧ればかりでは現在を生きることができない。自宅で昔の映画を観ることで満足せず、今年はもっともっと街の映画館へ足を運ぼう!

鍛冶紀子
Web制作業、ライター業のかたわら、古道具店を営む。
http://www.negla.net/

日本公開新作映画ベスト10
浅井学
1.『カルロス』オリヴィエ・アサヤス
2.『ファウスト』アレクサンドル・ソクーロフ
3.『ドライヴ』ニコラス・ウィンディング・レフン
4.『アウトレイジ ビヨンド』北野武
5.『ライク・サムワン・イン・ラブ』アッバス・キアロスタミ
6.『ニーチェの馬』タル・ベーラ
7.『ミッドナイト・イン・パリ』ウディ・アレン
8.『テトロ 過去を殺した男』フランシス・フォード・コッポラ
9.『ヒミズ』園子温
10.『KOTOKO』塚本晋也

日本公開新作映画ベスト10
上原輝樹
1.『ミステリーズ 運命のリスボン』ラウル・ルイス
自分にとって2012年は、メルヴィル・プポーの来日と共にラウル・ルイス作品をスクリーンで観ることが出来た年として記憶されることになるだろう。遺作となった怪作『向かいにある夜』(11)の1年前に作られた『ミステリーズ 運命のリスボン』(10)は、19世紀前半のヨーロッパを舞台にした歴史絵巻的ミステリー(に継ぐミステリー!)で、変幻自在のカメラワークが繋ぐ時空の「滑動」が、観るものを迷宮へ引き込み、4時間半があっという間に過ぎ去ってしまう。これほど”夢”そのものに近い映画も滅多にない。終わってしまえば跡形もなく消え去る、その絢爛豪華な軽やかさは、ヒッチコック映画にも比肩する。2000年の『夢の中の愛の闘い』も負けず劣らずの傑作。
2.『わたしたちの宣戦布告』ヴァレリー・ドンゼッリ
2012年、最も勇気をもらった映画ナンバー1。ジャック・ドゥミとトリュフォーの瑞々しい感触を今に甦らせる『私たちの宣戦布告』は、監督兼主演のヴァレリー・ドンゼッリが、自らの重い実体験を元にした物語を、まさに踊りながら疾走して駆け抜ける21世紀のヌーヴェルバーグ的傑作。映画自体の魅力に加えて、作り手兼俳優であるヴァレリー・ドンゼッリ&ジェレミー・エルカイム、最強コンビの魅力にやられた。ジェレミーがインタヴューで語った「我々は社会から押し付けられる必要はない。もし社会の押し付けを受け入れちゃったら僕らは不幸になるじゃないですか。もう生きている気力がなくなるじゃないですか。5時にシャンパンを飲む権利だって僕らにはあるでしょ?」という宣戦布告の言葉を忘れずに日々を過ごしたい。
3.『人生はビギナーズ』マイク・ミルズ
”映画史”とは無縁のところで、観客の心に訴える愛すべき映画が存在する。マイク・ミルズの『人生はビギナーズ』は、そんな作品のひとつとして多くの人々の心に留まり続ける珠玉の一遍になるに違いない。よく仕事帰りにiPhoneで愛聴したサントラは、自分にとっての2012年ベストサウンドトラックです。
4.『ル・アーヴルの靴みがき』アキ・カウリスマキ
『ラ・ヴィ・ド・ボエーム』(92)以来、20年振りにフランスを舞台に撮影された本作には、移民問題について、より直接的なメッセージが鮮明に打ち出されており、カウリスマキの新境地とも呼びたくなる力強さを感じた。ほぼ同時期に作られた、彼の盟友ダルデンヌ兄弟とロベール・ゲディギャンのそれぞれの新作、『少年と自転車』(11)と『キリマンジェロの雪』(11)も本作と並べて推しておきたい。とりわけ『キリマンジェロの雪』(『ル・アーヴル~』の刑事役ジャン=ピエール・ダルッサンが主演)は、『ル・アーヴルの靴みがき』の理想主義とは好対照の、地に足の着いたリアリズムで、日常生活における女性ならではの”闘い”の偉大さを謳った素晴らしい作品だと思う。
5.『次の朝は他人』ホン・サンス
ラウル・ルイスと並んで、2012年の特集上映で嬉しかったのは、カサヴェテスとホン・サンスの特集上映だった。ホン・サンスの映画は、カサヴェテス以来の素晴らしい口説きの極意を見せてくれる。語り口の軽さが何とも心地よい『ハハハ』(10)同様、映画ならではの”人生かくあるべし”が詰まった小さな傑作『次の朝は他人』には、才気を走らせないことの素晴らしさが宿っている。
6.『J.エドガー』クリント・イーストウッド
"20世紀米国における最大の権力者"J.エドガー・フーバーの半生を、アメリカ現代史の闇と並走させながら、彼の周囲のごく親しかった3人の人物に焦点を充てて描き、伝説と秘密に彩られた男の悲劇の源泉を鮮やかに浮かび上がらせる傑作ドラマ。本当の自分を偽って生きるしかなかった男へのレクイエムのように聴こえる、イーストウッドのピアノスコアに涙。
7.『裏切りのサーカス』トーマス・アルフレッドソン
ジョン・ル・カレの小説「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」を、英国の名優をずらりと揃え、『ぼくのエリ 200歳の少女』のトーマス・アルフレッドソン監督が映画化。引き算の美学で、70年代に"国家のため"の諜報活動に従事した登場人物たちの"感情の渦"を描いたサスペンスドラマ。M16本部が所在する霧のロンドン、ポール・スミスが監修を手掛けた衣装、独特なカラーパレットで構築された映像美が観るものを痺れさせる。フリオ・イグレシアスの「Le Mer」使いには、心底驚かされた。
8.『Virginia/ヴァージニア』フランシス・フォード・コッポラ
『コッポラの胡蝶の夢』(07)、『テトロ 過去を殺した男』(09)に続いて、コッポラ曰く小さな映画三部作の最後に撮り上げた『Virginia/ヴァージニア』(11)は、映画作家自らの内面をスランプに陥った小説家(ヴァル・キルマー)に投影し、喪った息子へのオマージュまで盛り込んだ、私小説ならぬ”私映画”の趣き。そのスタイルがホラーという点で、作家の長編処女作『ディメンシャ13』(63)が想起されて興味深い。『スーパー8』に続いて、ゴスメイクがハマるエル・ファニングが、またしても素晴らしい。
9.『テイク・シェルター』ジェフ・ニコルズ
”家族を守る”ために最善を尽くそうとする父親(マイケル・シャノン)が、その生真面目さから、却って家族を危険な目に遭わせてしまう、アメリカにおける自然災害(ハリケーン)と経済危機(リーマンショック)以降の人々の心理状況を”空”に照射したポストディザスター映画の傑作。人々の疑心暗鬼を”空”というキャンバスに具象化し、未来の不安を予兆することで現在の覚醒を促す本作は、大海を隔てたこの地では『サウダーヂ』(10)の郊外の都市に穿たれた空虚、そして時間を遡れば『遠雷』(81)のフレームの外の”空”と繋がっている。
10.『Playback』三宅唱
”俳優”という因果な商売を生業にしたものたちが生きる無限の”パラレルワールド”を物語の骨格に組み込み、自主映画と商業映画を往来して日本映画を支えて来た素晴らしい俳優たちの生き生きとした表情、仕草、話し方、その佇まいを捉える映画的瞬間の連続、『やくたたず』的としか形容のしようのない豊かな運動が立ち上がる瞬間、それら全てのモノクロームの時間が愛おしい。『Playback』には、『サウダーヂ』以来の傑作日本映画の登場に立ち会う喜びを感じた。


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