OUTSIDE IN TOKYO
MIYAKE SHO INTERVIEW

三宅唱『きみの鳥はうたえる』インタヴュー

2. 具体的な動きを作るのが僕らの仕事

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OIT:札幌は、原作小説の国立に書かれていたような、ああいう文化的な状況っていうのはあったのでしょうか?
三宅唱:ある程度あったかもしれないですけど、19までしかいなかったので、高校生の行ける範囲しかわかりません。まあ映画館とCD屋、そういえばヴァージンメガストアがありました。

OIT:ヴァージンは、東京にもあったけど無くなっちゃいましたね。
三宅唱:高校生の頃はヴァージンメガストアが一番好きでした、大人になれる感じがして。

OIT:ヴァージンはヨーロッパ系が強かった。
三宅唱:イギリスの会社ですし。

OIT:赤いビニールで。
三宅唱:当時はあれ持ってるのがかっこいいなと思ったりしていました。その後、東京に出て来てから多少は行動範囲が広がったかなと思いますけど。

OIT:ここで描かれてる人たちに、自分のそういう時代を重ね合わせるような感覚はあったんですか?
三宅唱:まずは小説ありきです。佐藤さんが「きみの鳥をうたえる」を書かれたのが当時30歳、31歳頃だったので、ご自身の生きた時間、友人たちと暮らした時代を、小説という形でなんとか記録しようとしているような、そんな試みのように僕は感じました。ただし、その試みに映画として応答するには、僕自身もどこかで自分の人生と格闘する必要があるなと、どこかで覚悟決めたようなところはありますね。

OIT:原作があるから、三宅さんの体験が何か映画の中に入っているという感覚ではない?
三宅唱:あくまでも原作に書かれているものがベースのつもりです。もちろん、読み手によって受け取り方は変わるので、自分の感覚がないというのは嘘になりますが。街の設定を変えることは企画の最初から決まっていて、それから時代も現代に変えることにしたので、具体的にどう飛躍しようかという時に、自分の人生がヒントになりました。

OIT:例えば、原作にもありますけど、120秒を数える、<僕>と佐知子の最初の出会いで、映画だと肘を触るっていうアクションがあるじゃないですか、それが二回ありますけど、あのアクションは映画の発明ですか?
三宅唱:一回目の肘触りは小説でもありますね。

OIT:あ、原作も肘触りありましたっけ?じゃあ二回目は映画オリジナルですね。
三宅唱:そうですね。

OIT:あの動きはいいですよね、月並みなんですけど(笑)。
三宅唱:いやいや、具体的な動きを作るのが僕らの仕事なので、そういうご指摘こそ嬉しいです。石橋さんのあのアクションは本当にいいなと僕も思います。小説を読んだ時は、すれ違いざまにちょっと肘をつついて、でも何事もなかったように去っていくって、一体なんなんだと。どんな風にお芝居して、どんな風に撮ることが出来るんだろうと、楽しみでもあり不安でもありました。現場では手首の角度やタイミングなど、石橋さんと佑と一緒に模索していったんです。具体的にどうアクションするか、それを発見するのが現場での仕事の大半です。また、そもそもこの小説には、映画としても魅力的に映えそうな具体的な身体的所作が多く描かれているので、それを活かすのが今回の仕事だなとも考えていました。撮影現場では、微妙な体の接触であるとか、人と人が近づいたり離れたりする瞬間であるとか、そういうことを撮るのが本当に楽しかったです。


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