OUTSIDE IN TOKYO
YOSHIGAI NAO INTERVIEW

吉開菜央『吉開菜央特集:Dancing Films』インタヴュー

5. 『梨君たまこと牙のゆくえ』の時は、吉本興業の
  プロデューサーから、鳥取の梨農園を舞台にしてくれれば
  何やってもいいよと言われて

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OIT:『静坐社』の次の年が『梨君たまこと牙のゆくえ』(2018)だったわけですけど、これは吉本興業の地域活性化の企画だと思いますけれども、独特の面白さというか、吉開作品の中では異色のナラティブものですね。通常、地域ものっていうと家族だったり、保守的な価値観が強調されたり、当たり障りのない物語になリがちですが、この作品はそうではなくて主人公さとこが暴れ回る、ガールミーツガールな話なわけですね。作り方としてはオーソドックスな作り方をされたということですか?
吉開菜央:そうですね、ここで初めて脚本家の方を入れたんです、高橋知由さんっていう、濱口竜介監督の『ハッピーアワー』(2015)で共同脚本をされた方ですね。最初に吉本のプロデューサーが依頼してくれた時、もう鳥取の湯梨浜町の梨農園を舞台にしてくれれば何やってもいいよみたいな、最初からそんな感じだったので、私は最初は5人の女の子達が色々な地方から集まって一軒家に住んで女だけで集団で暮らして梨を作ってるみたいな話を考えてました。
OIT:あー、それも面白そうですね。
吉開菜央:ねー、面白そうですよね。それぞれの5人のリズムがあって、ミュージカル映画『ラ・ラ・ランド』みたいなのを考えてたんですけど。でも、予算的にも、難しいってなって、農園で梨をつくるのは一人にして、都会と地方にいる子それぞれの絡み合いみたいなことを考えたんですよね。そもそも、プロデューサーに5人の女が共同で梨を作る話をやりたいって言ったら、現実的じゃないって言われて。本当に映画の中のセリフと同じことを言われたんですよ、普通夫婦でやるものだって。果樹園とか特に手入れが難しいから、本当に信頼してる人とじゃなきゃ出来ない、赤の他人には頼めないものなんだって。でもこの映画自体が元々湯梨浜町に農業従事者を一人でも獲得したい、っていうことで始まってるんですよね、だから今あるルールや体制でやってないことをどんどん受け入れていった方がむしろいいじゃんとか、私は思ったんだけど。
OIT:いいですよね、女子が5人来てくれたら、それにつられて色々な人が来たりとか(笑)
吉開菜央:そうそう(笑)。でもやっぱりまだそういう保守的なところがあるんだなと思いました。じゃあそういうリアリティも取り込んじゃえということで、夫婦のシーン入れたりしました。でもそもそも女一人で梨農家をやっているという設定も、かなり特殊なんですけど。
OIT:牙のアイデアはどなたのものですか?
吉開菜央:高橋さんと毎晩飲みながら色々なアイディアを出していって、本当に自然発生的に思い付きが重なった感じで出てきたんですけど、結構私の思い付きを高橋さんが上手く拾ってくれた。牙ってつまり欲望なんですね、じゃあ梨というのは愛情の象徴でみたいな(笑)。でも数ある梨の中からこれを選んだっていうのはやっぱり恋ですよねとか。飲み屋で話していく内に、ここにはこういう意味があるっていうことを二人で発見して、じゃあこういう流れにしたら出来ますね、ガールミーツガールの恋の物語がみたいな。でも、ガールミーツガールだけじゃなかったかもしれないですね、地球という欲望の資源に人間が刃を突き立てて喰らい尽くしていくみたいなこととか、そういうところも大きなテーマですけどあったりします。
OIT:大きなテーマについてはこれからじっくりお聞きしたいと思っているところではあったんですけど、飲んでいてもそれが形になるっていうのは脚本家の方が飲んでいたからそうなったわけですね。
吉開菜央:最初に脚本家の方が一緒に話してて思いついたことをまとめてくれて、それを彼の言葉で物語にして台詞とか書いてくれたんですけど、それで分かったんですよ、あ、こういう風に書けばいいんだって、流れとしてはこういう風にして、こういう感じで台詞を書けばいいんだって。でもめっちゃ申し訳ないんですけど、この言葉遣いは、私だったら言わないとか、そういう自分になじまない細かいことがどうしても出てきちゃって、凄い申し訳ないんだけど全部書き直しちゃった。ベースを踏襲して、もっとここをこうしたらいいんじゃないとかアイデアを盛り込んで書き直したんです。だから共同脚本なんだけど、だいぶ私の言葉で書き直されてるとは思います。
OIT:さとこさんの台詞とか、お寺でレイザーラモンRGをやっつけるところのやり取りとかも面白かったです。
吉開菜央:そこは即興なんです、好きにやってくださいみたいな。
OIT:あ、そうなんですね。要は自然な場面じゃないんですよね、ちょっと不自然なんだけど、それが面白いというか。こうした場面は、今までの作品では表面化していなかったユーモアとか、物語的側面が見れて面白かったです。あと、人間やめて私も山に帰ってみたいってなって、急にああいう展開になるんですよね。非常に吉開的な展開というか。
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