OUTSIDE IN TOKYO
YOSHIGAI NAO INTERVIEW

吉開菜央『吉開菜央特集:Dancing Films』インタヴュー

6. 人間だけの為の映画は作りたくない

1  |  2  |  3  |  4  |  5  |  6  |  7  |  8  |  9  |  10



吉開菜央:そうですね、しかもその抜き出された台詞はあんな風にもう直球で言ってますけど、ずっと私の中にあって、踊り始めた時に意識はしていなかったものの、とはいえ、踊りをやっていたからこそ出てきた感覚に違いなくて、ずっと私の中にあります、人間じゃないものになりたいっていう感覚が。
OIT:ご自分の欲望として。
吉開菜央:そうです。人間だけの為に映画を作りたくないっていうか。
OIT:人間の為だけじゃないっていうのは、他の生物とか、さらに無生物も含めたいということですね。
吉開菜央:そうです、風だったり光だったりとか、粒子だったり分子だったり原子だったり、ですね。
OIT:いまのお話で、今年の恵比寿映像祭で見た、アナ・バスっていうブラジルの女性の映画作家の作品を思い出しました。アナ・バスさんはカメラを自分の身体の一部として扱うんですね、だからぐるぐる回したり、逆さまにしたりするから、従来の映画文法とは違うことをやってる人なんですけど、彼女にとってカメラはアニミズム的な存在ですっていうことを言うんです。自分のカメラを通して見たものは命が吹き込まれるっていう考え方で、だからある物質を撮ればそれがアニメートする、つまり、生き物化するっていう考え方を語ってらして面白いなと思ったんです。
吉開菜央:かなり近いことを思います、本当に命が吹き込まれる、ただ撮っただけでは無理だと思うんですけど、それを然るべき方法で編集して映画にしたら、そしてそれがスクリーンを通してお客さんに観られたら、それは命を観客に吹き込める、その願いを込めて自分の呼吸音を入れてるっていうのもちょっとあります。
OIT:なるほど。あと、呼吸と同じくらいに水中のイメージっていうのがかなり出てくるんですけど、これは何かあるんでしょうか?
吉開菜央:水もそうですね、よく聞かれるんですけど、初めて聞かれた時に私も何でだろうって、それまでちゃんと考えたことがなかったので考えました。水ってもちろん私の体の中にも入っていて、何で入ってるかっていうのを考えると、骨って凄く固いじゃないですか、カルシウムですから、その周りに筋肉がついてるじゃないですか、筋肉はもうちょっと柔らかいものですよね、この全然違う異質なものを繋げることが出来るのが水だと思ったんです、要は液体ですね。しかも水自身はどんどん変化していく、例えば私の体から蒸散して匂いになったり、呼吸になって出ていったり、どんどん変わっていくんですよね。でも変わっていけるから違うものと違うものを繋げることができる、それが私にはダンスしてるように見える、それってダンスだなって、変容はダンスだってよく言いますけど、その凄く象徴的な存在として水があるなと思っていて。だから場面がバーンて180度展開していく時に結構水を使っているとは思います。
OIT:『ほったまるびより』で、急に新しい女子が登場するのは浴槽でした。
吉開菜央:そうですね。
OIT:ああいうのはちょっと理屈では考えられない。
吉開菜央:でも感覚として絶対みんな持ってるんですよ、ああ水の中、そうそうそうみたいな。プロデューサーに、最初の絵では水に匂いを溶かすって話した時も、よく分かんないけど、なんかいいねみたいな感じでピックアップしてくれて。
OIT:息をしていたのは匂いだったんですか?
吉開菜央:そうなんです、口の中に匂いを閉じ込めて、水中でその気泡を、口から口へと受け渡す。お風呂に住むあの子に、匂いに込められたこの世の記憶を伝えている、そういう考えでやっていました。母親がへその緒を通して胎児に栄養を与えるみたいな。
OIT:匂いがね、映画だとなかなか伝わらないんですよね。
吉開菜央:そうですね、だから色々なこと言う人がいました。
OIT:ジョン・ウォーターズは『ポリエステル』(1981)っていう映画で、匂いが出る紙を上映の時に配ったという。
吉開菜央:聞いたことあります、擦るんですよね。
OIT:そうそう、靴下の匂いとか、チョコレートとか。
吉開菜央:そうそう、めっちゃ面白いと思って(笑)。それって、なんか3D的な楽しみ方っていう趣向なんですか?アートっていうよりも、ちょっとエンタメ的に、よしじゃあみんなこの時の匂い嗅いでみようみたいな。
OIT:匂いってやっぱり表現出来ないから、体験として実験的にやったんだと思います。実際は、色々な匂いが混ざって、臭くて大変だったって、非常に評判が悪かったらしいです(笑)。それにしても、匂いだったっていうのは面白いですね。
←前ページ    1  |  2  |  3  |  4  |  5  |  6  |  7  |  8  |  9  |  10    次ページ→