OUTSIDE IN TOKYO
YOSHIGAI NAO INTERVIEW

吉開菜央『吉開菜央特集:Dancing Films』インタヴュー

8. 『Grand Bouquet』は元々<触覚映画>として
  インスタレーション展示してたんです

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OIT:やっぱりダンスは、吉開さんにとって一つのミッションと言いますか、こうして見てみますと、色々な作品を撮られていますけれども、ダンスがバックボーンになってますよね、共通した運動、動きというか。
吉開菜央:運動感覚、ダンスの感覚はありますね。
OIT:それはご自分が運動をされてきて、それもカメラに乗り移ってるというか、映画作家の在り方として、ちょっと面白いですよね。例えばフレデリック・ワイズマンなんかは撮影は常に運動だ、撮影する時は自分はアスリートだと思ってやってると語っています。だけど編集になると別人になると。
吉開菜央:本当にそうです、私、想田さんの「観察する男」を読んで、私もめちゃくちゃ共通する部分があるなって思いました。特に『静坐社』とか『Wheel Music』を撮ってる時は、ほとんど同じなんですよね、考え方が、作り方も同じです。
OIT:なるほど。『Wheel Music』の前に『Grand Bouquet』を作られているわけですが、僕が一番最初に観たのがこの『Grand Bouquet』でした。これには結構びっくりしたというか、面白かったです。この作品はどうやって構想されたのでしょうか?
吉開菜央:最初は、どんなに暴力をふるわれても叩かれても殴られても蹴られても死なない女みたいなのを漠然と作りたいなと思ってて、そうしていく内に、それで血が出るのは嫌だな、簡単に肉とか出しちゃいたくないなと思って、じゃあお腹蹴られたら花吐いちゃえばいいんじゃないかなと、そうしていく内に、でもいきなり暴力ふるうのもなと思って、まず精神的な問いかけをされて、それに答えたいんだけど、言葉は持ってるんだけど答えられなくて、じゃあ花を吐こうとか、そういう風に変わっていった脚本を何回も書き直して温めていたんです。そうしたら、<触覚映画>を作りませんかっていう話が出てきたんですよ、これを書いた丁度一年後くらいに。
OIT:触覚映画?
吉開菜央:『Grand Bouquet』は元々ICCで触覚映画としてギャラリー展示してるんです、インスタレーション展示ですね。それは映画だけじゃなくて、腹部と背中にスピーカーを付けて振動と一緒に見るんです。
OIT:じゃあVRじゃないけど、体験的なものなんですね。
吉開菜央:そうです、デバイスをつけるといろんな感触が伝わってきます。心臓の鼓動とか、なにかがぶつかってくる感触とか。それを最初に作らないかって言われた時に、私がずっと温めてたこの花を吐く女の話っていうのは合うんじゃないかなと思って提案して、やることになったんです。
OIT:映像自体は僕らが見たものと同じですか?
吉開菜央:それがまあいろいろあったんです。NTTの施設だったので、グロいシーンは公的に展示できないということで、全部黒塗りになっちゃったシーンがあります。
OIT:黒塗りは何分くらいですか?
吉開菜央:1分くらいだったと思います。赤い問いかけをされて赤い色になって花を吐いてハーハーハーってなって、顔をふって触った時に指が折れるっていうところがまず駄目で。
OIT:あのイモ虫みたいな。
吉開菜央:そうです、イモ虫とか指が出ているシーンは全部駄目で、画面は黒で音だけ聞こえてみたいな。
OIT:エグいからと?
吉開菜央:指の折れるシーンはNTTというより最初にICCの学芸員の人が気にしていました。同和問題に配慮したいという理由で。指が折れる=指が足りなくなる=4本指の表現だと思ったようです。でもあれは、指が四本折れているわけで、どう考えてもその表現になるようにわたしには思えません。後で私もいろいろ調べたけれど納得出来ないことだらけなんです、今でも。まあでもそれがことの発端でした。その後、映画の表現を確認するためにNTT広報室の人にみていただいたみたいで、広報室の人は、普通のCMやウェブムービーと同じように、広告的に映画を判断されてしまったので、いやこれもっといっぱい駄目でしょ、みたいな感じになって肉が出てくるシーンなんかも駄目になっちゃった。
OIT:それは触覚映画として観るから、スクリーンで観るよりも体験するともっと気持ち悪くなったりすると、そういうことですか?
吉開菜央:って思うじゃないですか、でも逆に、そっちの方が嘘だなって思いました。私もやってみたけど、もう最初に体験した時から、技術が、触覚のメディア自体が、そんなに身体に馴染まないんですよね、リアルではなかったです。でもむしろそれはそれで面白いし楽しめばいいかと思って、かなりエンターテインメントとして作ったんです。その辺の“触覚”も私が実際会場に入って技術者の人とやり取りしながら、もうちょっと強くとか、ここはもっとこういう感じでとか作っていったんですけど。そこはむしろ4DXに近いんじゃないですかね、擬似的な感覚として触覚を楽しむという感じ。
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