OUTSIDE IN TOKYO
YOSHIGAI NAO INTERVIEW

吉開菜央『吉開菜央特集:Dancing Films』インタヴュー

10. ”情動”がないと人は自分の行動を決定することが出来ない

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OIT:知らぬ間にそうなっていたというか。AIには興味ありますか?
吉開菜央:私の旦那さんが人工知能の研究者で、いろいろ話を聞くんですよ。やっぱり人間がどうしてアイディアを思い付けるのかとか、人間はどういう風に物を見分けているのかとか。
OIT:認知。
吉開菜央:そうそう、それを機械にさせようとすると人間がどうやってそれをしているのかっていうのを考えなくちゃいけないから、そういう話を聞いてると面白いなって思います。
OIT:先日、たまたまNHKでマルクス・ガブリエルとAIについてのアメリカにおける研究の第一人者である教授の対談を見たのですが、もう既に人間とAIは融合しているっていうことを言っていて、僕らの日常を見渡せば確かにそうだし、吉開さんの映画を観てても、もう自然にそういうことになってるなっていう感覚を覚えました。
吉開菜央:そう、だから『Grand Bouquet』を作ってる時も、ひたすらあの黒い塊を何で作ろうかなみたいなことで、ずっと頑張って植物の根っこの土を落として洗って、ああこれ凄くいい感じ、でも根っこをよく見てると、本当に私たちの体の中にも血管としてああいうものがあって、かつ私達の体の外にも携帯電話を通じて網の目状に広がってるインターネット世界があってみたいなこととか、全部同じだなぁと思ったんです。
OIT:全てが相似形であるというフラクタル理論ですね。先程、人間をやめてっていう話が出ましたが、土へ帰ることとか、循環する大きなサイクルみたいなことがやはり『Grand Bouquet』でも描かれていましたよね、吐き出されたものが花になって人間自体も解体されて、それがやがて土になっていくわけですけど、そこで土をどけると下に透明なものがある、っていう。あれは何だったんだろうって、今思ったんですけど(笑)。
吉開菜央:あれは一応、穴に見えたらいいなって思ってたんですけどね。最初の脚本では掘って掘って掘りまくったら地球の裏側に繋がったみたいなことを書いてたんです。そこまでの予算はなかったんですけど(笑)。でも何か穴が開いてて向こうを見ると別の世界、別の星が出来てたみたいなことになったらいいなと思ってました。
OIT:別の星?
吉開菜央:多分、別の星なんじゃないかなと思いました。
OIT:最後に原初からの森みたいなショットが長くあるわけなんですけど、同じようなショットが他の映画にもありましたよね?
吉開菜央:そうですね、『ほったまるびより』のラストですね。
OIT:緑の中をあちらから人が走ってくるんですけど、あれは一体何だったんでしょう?
吉開菜央:『ほったまるびより』と『Grand Bouquet』では、全く意味合いが違うんですよね。『ほったまるびより』の時はずっと外に出たいっていう話だったので、何かを誕生させるまでの話だなって自分では思っていて、あとは立ち上がるまでですよね、土を踏む、土を踏んでステップを踏むことで踊る、踊り始めるまでの映画だったから、外に出したいと思っていた、でもその外に出たとしても、言ってみればあの子が踊り始めて走り始めて、次の瞬間にはハゲタカに寝首とられて死んじゃうかもしれない、そういう世界に出ること、踊り始めるっていうことはそういうこと、外に出るっていうことはそういうことだみたいなことですね。『Grand Bouquet』はもうちょっと別のものをまた生み始めてっていうニュアンスが大きかった。別の星というか、全く別の大きな地球というか。
OIT:あれはじゃあもう別の星の始まり。
吉開菜央:ですね、最後ガチャガチャ水の音をぐわーってあげてるんですけど、初めて音響の北田さんにその音を付けてもらった時に、北田さんめっちゃこの音いいですねって、これ地球が歩き始めた音に聞こえますって言ったんです。そんなイメージで、まあどう受け取ってもらってもいいんですけど。
OIT:面白い、プリミティブな状態に戻るというよりは、違うところにいくわけなんですね、循環するんじゃなくて螺旋構造的な感覚。
吉開菜央:そうですね、言ってみれば私が子供を産んで私のDNAが次の子に伝わっていくみたいな、そういうようなことに近いと思います。
OIT:これはあまり一般化された言い方にしたくないですけど、女性ならではと言わざるをえない、と思います。それがでも映画の領域で表現されてくるようになったっていうのは、最初にも言いましたけど新しい事態で、面白いと思います。これからも作品を楽しみにしています。
吉開菜央:ありがとうございます。
OIT:最後に情動っていう言葉についてだけ聞きたいんですけど、これは感覚的には何となく分かるんです、それをどういう言葉として使われてるのか教えて頂けますか?
吉開菜央:私が最初に情動っていう言葉を知ったのは、昔読んだ雑誌か、本だったと思うんですが、そこには”情動”がないと人は自分の行動を決定することが出来ないって書いてあって、本当にそうだなと思ったんです。踊ってる時は考えてないから、次に手を伸ばそうとか、足を出そうとか考えないで踊っている。でも全く考えてないかっていうとそうでもないんですよね、なんか体で考えてる感じがあるんです、それって凄く言葉にしづらくて、そこに感情がないかっていうとまたそうでもないんですよ。確かに喜怒哀楽っていう名前が付いている感情ではなくて、まだ名前が付けられてないなって思う、だから言葉になる前の感情なんじゃないかなって思って使ってます。
OIT:それが情動。
吉開菜央:そう私は捉えています。
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