OUTSIDE IN TOKYO
YOSHIGAI NAO INTERVIEW

吉開菜央『Shari』インタヴュー

3. たった四人の撮影クルー、そして、斜里の皆さんとともに作った映画

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OIT:その段階でもう斜里ってこういう感じとか、”シャリシャリ”とか、そういうイメージはあったんですか?
吉開菜央:やっぱり現地でしか子どもたちの声は撮れないから、撮影に行く前から何を言わそうか?みたいなことは考えていました。“投げても投げても”とか、“シャリシャリ”ってちょっと囁いてもらう、といったアイディアは持っていましたね。「Shari」というタイトルも撮影前は決まっていなくて、編集が終わって、タイトルを「Shari」にしようと決めてから、映画に出演してくれた子どもにクレヨンで書いてもらいました。
OIT:コンテを作ってそういう風に皆さんと共有するプロセスがあって、その次はもう撮影ですか?
吉開菜央:でもその時はまだ石川さんしかスタッフがいなかった。しかも石川さんは映画は初めてで、私もそんなに慣れているわけじゃないから、二人だけでやるのは絶対大変だという感覚があって、誰か手伝ってくれる超熟練映画スタッフの人いないかなって思っていた時に、「いだてん〜東京オリムピック噺〜」の現場に関わっていたり、『ドライブ・マイ・カー』の助監督をやったりしている、百戦錬磨の映画人である渡辺直樹さんが、丁度、お茶しようって言ってくれて5時間くらい話し込んだ最後の方で、ぽつりと今度知床で撮るんですよ、石川さんが撮影で、って話したら、何それ面白そう!僕行く!って言ってくれたんです、もう即答で。という流れで、こんな素晴らしい助監督の方が、チームに入ってくれて、助監督を引き受けてくださることになってしまったという感じでした。
OIT:それは心強いですね。
吉開菜央:そう、めちゃくちゃ心強かったです。もう一人のスタッフ、松本(一哉・かずや)さんは、元々氷とかの音を録りながら演奏されてる方だから、めちゃくちゃ斜里と相性がいいなって思ってて、音楽を前々からお願いしようと決めていました。さらに、録音もお願いしたいんですって言ったら、松本さんも映画の録音は初めてだけど、やりますって言ってくれました。それでこの少数精鋭、たった四人の撮影クルーメンバーが東京で決まったんです。
OIT:他にアシスタントはいなかったんですか?
吉開菜央:いないです、東京からは。でも向こうには町の人のプロジェクトメンバーがいますから、その協力を得て、何とかやってみようって感じでしたね。
OIT:地域の人達ものってきてくれたと。
吉開菜央:凄いノリノリでした、本当に我々を巻き込んで一緒に作らせて欲しいって凄く言ってくれました。プロジェクトメンバーだけじゃなくて、“赤いやつ”の衣装を作る時はワークショップを開いてくれて、町内紙に告知を折り込んでくれたんです。“赤いやつ”の衣装を作るから、何月何日に来れる人は来てね!みたいな感じで呼びかけてくれて、結構集まってくれたんです。
OIT:地域の人達がノリノリになってくれたのが結構大きいですね。一見、アートフィルムのような感じだけど、地域の人達がドキュメントされているご当地映画、ローカル・フィルムっていうのは意外と見かけないスタイルだなっていう気がしたんです。
吉開菜央:そうですね、特に最初の紙芝居の段階では本当に抽象的なアートフィルムみたいなやつだったわけで、いわゆる地域おこし映画みたいなテンションは一切ない。でも、むしろ地域の皆さんはちょっと変わったことやる方が面白いと思われたと思います。だから斜里の人たちは、訳わかんないものにお金出せないとか、手伝えないっていう感じは全然なくて、むしろ、ちょっと変で面白そう、“赤いやつ”って何それ?みたいな感じで楽しんで参加してくれていた気がします。もちろん石川さんのご縁がある人達だから、そういうことを面白がってくれる人たちが集まっていたということもあるのかもしれないけど、間口が広いなっていう感じがしました。
OIT:好奇心というか、惹かれていく感性みたいのがある人達が結構いたという。
吉開菜央:北海道自体がもしかしたらそうなのかなってちょっと思ったんですけど、やっぱり開拓されて出来てきた地域という歴史がありますから。札幌のモエレ沼公園とかも、凄く革新的な素晴らしい公園も出来てたりしていて、ああいうものが出来る土地柄って外から来た異物を排除するのではなくて、違うもの、新しいものを受け入れてみようという感覚があるのかなと、もちろん、それが自分達に害を及ぼす可能性もあるけど、まずは聞いてみようという感覚があるのかなと今になって思います。

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