OUTSIDE IN TOKYO
YOSHIGAI NAO INTERVIEW

吉開菜央『Shari』インタヴュー

4. 眠れない夜に映画の最初のイメージが生まれた

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OIT:この斜里っていう町には、香川県から来た香川集団とか福島県から来た福島集団とかがあるんですっていう話が作中に出てきましたが、さらにその前に住んでいた人たちもいたわけですね。
吉開菜央:凄くさかのぼって話をすると、映画の中に出てきてた民話のオロンコ岩ってあったじゃないですか、本当にオロンコ岩の上に人が住んでたんです。
OIT:オロンコ岩って海岸沿いに実在する岩ですね。
吉開菜央:海岸沿いの断崖絶壁の超巨大な岩です。その上に実際に人が住んでたんです、外敵が来れないからということで。岩の上に住んでいたオロッコ族(ウィルタ族:樺太の先住民族)は、アイヌの人々に打ち負かされたっていう民話が残っていて、そういうオホーツク文化とつながりのある人たちがそこに最初に住んでいたはずですね。そこに新しい開拓者たちが入っていった、そういう歴史なんだと思います。
OIT:その後、開拓者たちの大変な苦労の歴史があった訳ですね。
吉開菜央:そうですね、その後も農地開拓や、今、世界自然遺産になってる森(2005年、知床国立公園が世界遺産に登録された)がありますけど、森づくりの歴史があって、森を農地にしようとしたけれど失敗に終わったという歴史もあったようです。その後も知床移住のブームが何度かあったらしいです。「知床旅情」を加藤登紀子さんが歌って流行ったり。今でも、外から移住してくる人はいますって役場の方が言ってました。
OIT:面白いですね。そういう歴史にも映画の中では触れているわけですけれども、撮影をしていく中で見つけて取り込んでいったこともあるんですか?
吉開菜央:音に関しては、燃える音とか蒸気の音とか、熱を感じるような音は見つけたら録っておいてくださいというお願いは松本さんにしていましたが、基本的には松本さんにほぼお任せという状態でした。撮影に関しては、事前にロケハンをした後、まず斜里に着いて実際にどこで撮ろうかっていう時に、40年に一度の小雪で全然雪がない、普段だったらもう真っ白なんだけど、みたいなところばっかりだったんです。それで最初に考えてたアイディアでやり切るのは難しそうだなと思って渡辺さん達と話してる内に、この異常気象も“赤いやつ”が呼び寄せたような流れにする?ということを思い付いて、全体を練り直してます。撮影で現地に行ってからも脚本を少し書き直して、それを香盤化して撮りました。ちゃんと準備して撮影する必要があるシーンを香盤化してきっちり撮り終わった後は、予定になかったエクストラカットがどんどん増えていって、エクストラを撮りまくる日々でした。
OIT:小和田さんとか三浦さんとか、主要な登場人物5〜6人の方がいらっしゃって、あと子ども達がいる、そういう登場人物達は割と早い段階から決めてたんですか?
吉開菜央:それも撮影に行ってから決めましたね。最初に撮影の準備が必要なフィクションシーンを撮ったんです、ファンタジーシーンを。相撲とか“赤いやつ”が森から初登場するシーンとか、小和田さんがパンをお供えに行く場面とか、そういう事前に決めておかないと絶対撮れないシーンを先に撮りました。撮影までに、親しくなった斜里の人から斜里の面白い話もいっぱい聞いていて、ちゃんとお話を録音して聞きたいな、お家に行ってお家を撮らせて欲しいなみたいなことをぼんやり考えてたから、フィクションシーンをあらかた撮り終わった後に、じゃあ地元の人を取材しようと思って、年齢層とか男女層とか、職業とか、そういうバランスを考えながら、インタビュー撮影をしました。
OIT:鹿の肉を食べて寝れなくなったっていうのは実際に吉開さんの身に起きたことですか?
吉開菜央:そうですね、2019年の夏にシナハンに行った時は寝れなくなりました。でもそれは多分、鹿肉っていうのもあるけど、初めて写真ゼロ番地知床メンバーの皆さんに会って、凄い熱量で歓迎してくれて、うちらを巻き込んで作ってねって言われて、こんなに楽しみにしてくれてるんだ、みんな超熱いじゃん!でも私には何が出来るんだろう?ってプレッシャーを感じて、ストレスになった、どうしよう、ちゃんと出来るかなぁみたいな不安とワクワク感で眠れなかったっていうのも大きかったんだと思うんです。でもそうして追い込まれた時に、直感で出てきたのがイントロシーンの小和田さんがパンを森にお供えに行く場面でした。その最初のイメージが眠れない夜に生まれてきたって感じです。

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