OUTSIDE IN TOKYO
YOSHIGAI NAO INTERVIEW

『Shari』は、「写真ゼロ番地 知床」というプロジェクトを通じて、その地の知られざる一面を写真ワークショップなどを通じて発見、発信してきた写真家石川直樹によって、日本最北の世界自然遺産、知床・斜里(Shari)に招き寄せられた吉開が、斜里の人々と共に時間を過ごしながら、自らの獣的欲望に背かず<吉開菜央>を全面展開することで、如何にしてこの不自由な現代社会と拮抗するかの実験であるようにも思える。

『Shari』で、吉開菜央は自らのダンサーとしての肢体をほとんど晒すことなく、映画館のスクリーンに自らの感性と欲望を全面展開する画期的な手法を発明している。ここには、ジビエ料理の鹿の血を契機として、ダリ=ブニュエル的なシュールレアリズムが回帰しているが、作品の感触は圧倒的に新しく、”音”はキラキラと輝いている。一部のティーン向け邦画を半分揶揄する意味合いで”キラキラ映画”という言葉がかつて使われたことがあったが、本来であれば、『Shari』のような新鮮な魅力を持つ作品に使われるべき言葉ではなかったのか?

『Shari』は、吉開菜央=”赤いやつ”が、<人新世>と言われる現代において、それでも人間は自然の一部に過ぎないでしょう!と今にでも叫び出しそうな勢いで、山の気候において拮抗する雲と風のように、論理の雲に対して、官能の風をぶつけて土俵上で押しつ押されつ拮抗している様が素晴らしく、そこには飄々たるユーモアすら漂う。傑作!と呼ぶしかない新作を自らの身体を張って撮り上げた吉開菜央監督に約1年半ぶりにお話を伺った。

1. 発端は、生物多様性の地で行われてきたプロジェクト
 「写真ゼロ番地 知床」

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OUTSIDE IN TOKYO(以降OIT):映画を拝見して、また吉開さんが面白い作品を作られたなと思って嬉しくなりました。まず最初に、どういう風にこのプロジェクトが始まったのかということ教えていただけますか?
吉開菜央:写真家の石川直樹さんが知床の人達と一緒にやっている「写真ゼロ番地 知床」というプロジェクトで、石川さんが知床の写真作品を撮って、斜里町の町の有志の方と、年に一度、展示するということをされていたんですね。それは基本的には写真作品が多くて、石川さんの他にも石川竜一さんとか鈴木理策さんとか、別の写真家さんを呼んで展示をしてきたのですが、プロジェクトが四年目を迎えて、今度は私を招いてくださって、いつもは写真を展示しているプロジェクトだけど、吉開さんは映画やってるから映画を撮ってみない?って言われて始まったのが最初です。
OIT:最初にお声がかかって、まずは知床を見に行かれたのですか?
吉開菜央:そうですね、私は知床に行ったことがなかったですから。流氷が来るとか、熊が出るということも全然知りませんでした。まずは仕事で一回行こうって言われて、石川さんがTHE NORTH FACEとやってる仕事で知床に行って紀行文を書くっていう夢のようなお仕事を貰えて、石川さんと一緒に行きました。それが2019年の春でした。
OIT:石川さんは知床へ行ったり来たりしてるのですか?
吉開菜央:そうですね、よく行って、本当によく写真を撮られています。写真を撮る時も石川さんがご自分で車を借りてっていうよりは、写真ゼロ番地知床のメンバーの方がアテンドをされることも多いようです。地元の方が石川さんを自分の好きな場所に連れて行って、そこでいいなと思ったら石川さんが写真を撮るということもしていると聞きました。
OIT:知床って生態系がユニークな場所で、流氷が流れ着いてくる最南端の地なんですよね。
吉開菜央:そうなんですよ、北の方から見れば一番南なんですよね。
OIT:北の植物と南の植物が両方群生しているっていう場所。僕が映画祭で関わっている石垣島にも、西表島のマングローブがあって、マングローブって海水と川の淡水が混ざってるところなんですよね、だからそういうところに生息出来る植物がそこで育つわけですね、知床でも海水と淡水が混ざってるようですね。
吉開菜央:そうです、ロシアのアムール川の雪解け水が海に流れ込んで流氷になる。
OIT:やっぱりそういうところって自然の多様性みたいなものがあって、写真家が行きたがる気持ちは分かりますね。
吉開菜央:昔なにかで読んだのですが、石川さんは、知床はアラスカに似てるって言ってましたね。アラスカの雰囲気や土地、人々の性格も。文化もアラスカに似ているって書いていた気がします。


『Shari』

10月23日(土)より順次公開!

監督・出演:吉開菜央
撮影:石川直樹
助監督:渡辺直樹
音楽・録音:松本一哉
音響:北田雅也
アニメーション:幸洋子
出演:斜里町の人々、海、山、氷、赤いやつ

『Shari』(c)2020 吉開菜央 photo by Naoki Ishikawa

2021年/ビスタ/5.1ch/カラー/日本/63分
配給:ミラクルヴォイス

『Shari』
オフィシャルサイト
https://shari-movie.com

「写真ゼロ番地 知床」
https://shiretokophotofes.
wordpress.com/about/
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